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ビデオ判定で「余白」が消える――。
MLB審判新制度と野球文化の考察。 

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鷲田康

鷲田康Yasushi Washida

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posted2014/04/19 10:40

ビデオ判定で「余白」が消える――。MLB審判新制度と野球文化の考察。<Number Web> photograph by AFLO

今季から稼働するMLBのビデオ判定センター。総工費は約10億円と言われ、各球場から送られてきた映像を一括管理し、審判員と連絡を取り合って対象となるプレーを確認する。

野球のリズムを作っていた、“流れアウト”。

 野球は流れのスポーツである。

 プレーには一連の動きがあって、そのリズムの中である程度の判断が下されて然るべきというのが、これまでの審判のジャッジにはあった。

 例えばアンナの例は、厳密に言えばアウトだったかもしれない。ただ、大きくオーバーランしたわけでもなく、滑り込んでベースに立つときに足が浮いた一瞬の出来事だった。これで果たしてアウトにするのが正しいことなのかは、論議の余地があるはずなのである。

 もう一つ例を挙げるとすれば、走者一塁の内野ゴロでの併殺プレーで、二塁のベースカバーに入った選手が捕球後に正しく触塁しているかどうか。これを厳密にジャッジするなら、ベースを踏んだ直後に捕球して一塁に送球しているケースもあるはずなのだ。

 しかし、これは一連のプレーとして明確な落球や明らかにベースを踏んでいない場合を除いては、今まではアウトと判断されてきた。いわば“流れアウト”とでも言えばいいのだろうか……。こうしたジャッジは、野球のプレーとしての一連の流れを尊重して判断が下されてきたわけである。

 もし今後、こういったケースでチャレンジが行なわれれば、ビデオで一瞬を切りとるとセーフになるケースもかなり出てくるはずだ。それをプレーする側が気にしだしたら、プレーの流れが遮断され、野球そのもののスピード感を失うことにつながる可能性も出てきてしまうかもしれない。

プロの技を魅せるプレーと、スタンドの空気感。

 4月16日(日本時間17日)のニューヨーク・ヤンキース、田中将大投手の先発試合でも、相手チームのシカゴ・カブスが2度のチャレンジを行なっている。

 2回一死からジュニア・レイク外野手が三塁前にセーフティーバント。マウンドから駆け下りた田中がこれを処理して一塁は間一髪でアウトの判定だったが、カブス側のチャレンジで覆った。また7回無死一塁で4番のネイト・シューホルツ外野手の強烈な投手返しを、田中が何とかグラブで弾いてそれを拾ったディーン・アンナ遊撃手が一塁に送球したプレーもあった。このプレーはチャレンジの結果、判定通りのアウトに落ち着いている。

 いずれも守備側が一連の流れで間一髪、それこそプロの技を魅せるギリギリのプレーで“流れアウト”の状況を作り、それを審判が判断して判定を下している。いいプレーだからこそ、その結果にスタンドのファンも喝采を送るわけだ。上手い審判であればあるほど、この流れを大事に名ジャッジしているようにも見える。

【次ページ】 余白のある判定が野球を面白くしてきた。

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