プロ野球亭日乗BACK NUMBER
ビデオ判定で「余白」が消える――。
MLB審判新制度と野球文化の考察。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byAFLO
posted2014/04/19 10:40
今季から稼働するMLBのビデオ判定センター。総工費は約10億円と言われ、各球場から送られてきた映像を一括管理し、審判員と連絡を取り合って対象となるプレーを確認する。
メジャーリーグで今年から導入されたビデオ判定の拡大とチャレンジ制度は、少しばかり波乱のスタートとなったようである。
スポーツ専門チャンネルESPN(WEB版)の報道によると、開幕から2週間で185試合が行なわれ、84個の判定がビデオで確認され、そのうち28のジャッジが覆された。チャレンジの成功率は33%ということになる。
その一方で、すでにボストン・レッドソックスのジョン・ファレル監督、テキサス・レンジャーズのロン・ワシントン監督と2人の監督が、このシステムによる判定の変更に不満を抱いて抗議した末に退場処分を食らっているという事実も見逃せないだろう。
ファレル監督が経験した2つのチャレンジ。
「ビデオ判定は完全ではない」
ファレル監督は4月13日のヤンキース戦の試合後にこう語っている。
この試合の4回の併殺プレーを巡って、ヤンキースのジョー・ジラルディ監督がチャレンジを行使。その結果、一度は併殺成立と判断された判定が覆って、その間にヤンキースに決勝点となる1点が入った。このビデオ判定によるジャッジの変更に抗議してファレル監督は退場処分を受けたわけだ。
「リプレイ映像が決定的でないことは明らかだ」
試合後に同監督は語っている。
実際にテレビで何度も映し出された映像では、一塁手のマイク・ナポリの足の陰になって一塁に駆け込む打者走者のフランシスコ・セルベリの足がベースに触塁する瞬間は映っていない。今までならプレーの流れからアウトと判定されても仕方ない微妙な判定だった。
ただ、ファレル監督の頭の中にはもう一つ、前日のチャレンジのことがあったのも確かだろう。
4月12日のヤンキース戦の8回、ヤンキースのディーン・アンナ遊撃手が右翼線への安打で悠々と二塁に到達したと思えた時だった。リプレイ映像でアンナが一瞬、ベースから足を上げた瞬間にレッドソックスのサンダー・ボガーツ遊撃手がタッチしているところが映ったのだ。この映像を確認してファレル監督はチャレンジを行使。しかし、ビデオ判定の結果、ジャッジは変わらなかった。
後にMLBはこの判断に「判定は変わるべきだった」との見解を示したが、要はビデオ判定といえども、完全ではないという事実を浮き彫りにしたことになる。