野球クロスロードBACK NUMBER
初采配にして色濃く見えた“谷繁流”。
「1点の野球」は強竜を甦らせるのか。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byKYODO
posted2014/03/31 11:30
3月29日の開幕2戦目、広島のルーキー九里亜蓮を打ち崩せず、谷繁兼任監督は厳しい表情で戦況を見守っていた。
たとえ4番バッターでも積極的な走塁を怠るべからず。
投手起用全体でも、森繁和ヘッドコーチが「8回は田島(慎二)、守護神は岩瀬に任せる」と明言し、開幕戦から緊迫した展開でふたりを投げさせた。1点を重んじる投手リレー。谷繁野球、実に抜け目がない、と言ったところか。
気迫の面でも、選手たちは指揮官が求めるプレーを演じてみせた。
開幕戦の6回、2死一、二塁と勝ち越しの場面で谷繁がセンター前に弾き返すと、センターの捕球位置が浅かったにも関わらず二塁走者の平田良介は迷うことなく本塁へ突入。紙一重の差でアウトになったが、「4番打者であっても走塁を怠るべからず」といった意思表示がはっきりと窺える場面だった。
このプレーについて平田は、「当然ですよ」と言わんばかりに状況を説明してくれた。
「打球どうこうっていうより、同点で2アウトでしたから(三塁コーチャーが)絶対に回すだろうと思って走りました。自分は絶対セーフだと思いましたけど、審判が『アウト』といったらアウトなんでしょうがないです。ただ表面では冷静に、体の内側では熱く熱く。そういうプレーを続けていきたいです」
そして、何より印象的だったのが、3月30日の試合で見せた荒木の走塁だ。
指揮官は「皆さんがどう感じたか」とはぐらかすが……。
両軍無得点の3回、1死二、三塁の先制のチャンスで荒木の打球はボテボテのサードゴロ。それでも、36歳のベテランは一塁へ猛然とヘッドスライディングし、執念で1点をもぎ取った。谷繁中日の初勝利は、この気迫から生まれたとも言えるだろう。荒木のプレーは、心も体も熱かった。
選手の気迫について記者から尋ねられた谷繁監督は、少し照れ笑いを浮かべながら、「それは僕が感じるより、皆さんがどう感じたかでいいんじゃないですか」と肯定も否定もしなかった。
だがチームの姿勢は、この3試合で間違いなく見る者に伝わった。
開幕カードは1勝2敗。結果はまだ、伴っていないが、中日はしっかりと中日らしさを披露してくれている。
1点の重みと気迫あふれるプレー。双方を見失わずに戦い続ければ、リーグ制覇という大願にも近づける。
強竜は、必ず再燃するのだ。