スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
マイケル・ワッカと秋の若武者。
~Wシリーズで奮闘した超新星~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2013/11/02 08:01
カーディナルスを牽引してきたワッカ(右)とモリーナ。2人の夢は第6戦で潰えた。
フルカウントから、真ん中へチェンジアップで勝負。
ワッカの武器は、なんといってもチェンジアップだ。直球を投げるときとまったく同じ腕の振りで、彼はこの変化球を投げる。まっすぐの球速が155キロで、チェンジアップが135キロ。20キロの差があると、打者は翻弄される。大きく沈んだり、視界から消えたりするわけではないのだが、なぜかバットに当たらない。こういうチェンジアップを投げたのは、近ごろでは全盛期のヨハン・サンタナぐらいだろうか。
そういえば、ワールドシリーズ第2戦の6回裏、ワッカとオルティースが対決した場面もなかなか見応えがあった。結果は、オルティースがグリーンモンスターを越える本塁打で貫禄勝ちしたのだが、最後の4球はすべてチェンジアップだった。とくに驚いたのはフルカウントから、ほぼ真ん中にチェンジアップを投げ込んだときだ。
よほど自信がなければ、あの場面であの球は投げられない。聞くところによると、名捕手ヤディア・モリーナは「気にするな。あの投球でよかった。かならず取り返してやる」といって、ワッカを励ましたという。さもありなん。こういう場面は、きっと後世に語り継がれるにちがいない。