野球善哉BACK NUMBER
「軍隊のように厳しい練習」も今は昔。
CS初進出を果たした広島の変貌ぶり。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2013/09/30 12:20
野手出身ながら、調整を自主性に任せるなど、投手起用に柔軟さを見せた野村謙二郎監督。短期決戦のCSではどんな采配を見せてくれるのだろうか。
育てても育てても、他球団に流れ続けた選手。
山本浩二、衣笠祥雄に始まり、北別府学、大野、川口和久らで投手王国を作った時代には、高橋慶彦、正田耕三、小早川毅彦らがスピードのある野球を見せつけた。平成に入ってからは野村、緒方孝市、前田智徳、江藤智、金本知憲ら好打者を次々に輩出した。
しかし、プロ野球が新しい時代へと突入し、広島は置き去りにされた。
FA制度が導入され、江藤をはじめとして、金本、新井貴浩を他球団に譲らざるをえなかった。広島もその制度を利用したいが、いかんせん資金力に乏しい。もともと、FA制度に反対した球団とあって、内川聖一の獲得を打診したこと以外は、FAとは無縁だった。
育てても育てても、強くなるには限界があった。
それでも、今季ここまで上り詰めてきたのは、ドラフトを含めたチームのマネジメントが少しずつ成果を出し始めたからだった。
ドラフトではその年の「目玉」という言葉に惑わされずに確実に能力が計算できる選手のみを指名し続けてきた。前田健、今村、野村を一本釣りで獲得し、福井優也や堂林翔太らも、他球団より先んじた。他球団の下位指名が予想されている選手でも、高卒で成長途上の選手でも、スカウトの眼力を信じて独自の戦略で指名していった。
編成のマネジメントも見事だったが、チームを作り上げるマネジメントもいい方向に向きつつある。
軍隊式だった広島の練習方法も変わった!?
以前は、広島の練習は「軍隊のように厳しい」と揶揄されたが、今はそれほどではない。例えば、春季キャンプといえば、投手陣の投げ込み・走り込みが当たり前というのがプロ野球界の風潮だが、今の広島にはそうしたものがない。
キャンプ中でも球数を多く投げ込む投手は年々減少傾向だし、監督やコーチが主導となって、選手をしごくという体質はなくなった。
そこに至るまでには、前田健の成功が手本になっている。
前田健は、今年こそWBCでの無理な登板で故障がちとなったが、毎年オフには1年間を考えたコンディション作りを心掛けてきた。キャンプ中には過剰な投げ込みをせず、身体づくりを基本線とする。「投げ込んで、何かが良くなるのなら、投げ込みをしますけど、そうとは限らない」というのが前田健の持論で、それを貫いて2010年に沢村賞を獲得。その思考法はチーム内に浸透している。