ボールピープルBACK NUMBER
中東で交わした日本代表論と
リオデジャネイロの空港の匂い。
~写真家・近藤篤、世界を往く~
text by
近藤篤Atsushi Kondo
photograph byAtsushi Kondo
posted2013/06/14 10:30
オマーン対日本戦の観客席で歌って踊りまくるサポーター達。試合中でも、スタンドは完全にお祭り騒ぎだ。
今回は氏の最新刊となる『ボールピープル』の発売を記念して、
コンフェデレーションズ杯の紀行エッセイを発表することとなりました。
複数の外国語を完璧に使いこなし、大都会から辺境の地、セレブリティな
生活からスラムのど真ん中まで、世界のあらゆる場所で“フットボールのある風景”を撮り続けてきた近藤氏。2014年ワールドカップ開催の地ブラジルで、果たして氏は何を見出すのでしょうか?
アンマンで行われたヨルダンとの試合後だった。
試合は1-2でヨルダンの勝利に終わった。
スタジアムからの帰り道で、けっこうな数のヨルダン人から、「Jordan! Jordan!」とこちらの鼻先50センチほど向こうで連呼された。中には、ザッケローニが相手チームの選手からされたように、親指で喉を掻き切るゼスチャーを見せる若者もいた。
ホテルに戻ると、試合前はニコニコと笑っていたホテルの清掃係のボスが、ニヤニヤと笑いながら「ヨルダン、ツー! ジャパン、ワーン!」と大きな声で話しかけてきた。
オヤジはその日の朝、どう転んでもヨルダンが日本に勝てるわけがない、だってこの前は0-6だよ! 引き分けられたらグッドラックだ、とものすごく弱気なことを言っていた。
ところがである。
ヨルダン人は、日本が負けるまで僕にとってはもの静かで親切な人々だったが、勝ったとたんに横柄になった。そういう人たちはこれまであまり見たことがなかったので、ちょっと困惑した。
アルゼンチン人がいるじゃないかって?
いやいや、彼らは試合前から横柄で、勝っても負けても横柄なだけだ。
日本代表はアジアで「圧倒的に強い」のか?
ドーハでのイラク戦が終わって、日本代表のブラジルW杯アジア最終予選はすべて終了した。
最終予選8試合の全てを消化して、ザックジャパンが残したのは、勝ち点17、得失点差は+11という数字だ。ザッケローニ監督は、イラク戦後に「圧倒的な強さを見せられた」とコメントしたという。
圧倒的……?
たしかに数字上は圧倒的に強く見える。だが、カメラマンとしてピッチのそばで撮っていて、圧倒的強さを感じたことはほとんどなかった。仕事仲間の口からも、今回の日本代表はものすごく強いよね、という意見を聞いたことがない。
むしろ、相手チームのダメさ、みたいなもののほうが相変わらず目についていた。たとえば、昨年11月に行われたマスカットでの試合。ホームのオマーンが先にバテてしまっていた。もっと走り込もうよ! と心の中で呟いた。
グループ中で、オマーン、イラク、ヨルダンは世界基準外だろう。唯一世界基準すれすれのところにいるオーストラリアとの2試合は、いずれも押し切りかけて押し切れなかった試合だった。
本田と長友が抜けると、日本代表の体幹は一気に弱くなる。もちろんその問題はザック本人が一番わかっているはずだ。だからこそ、記者会見で「本田不在で4敗しているが?」と質問をされると、決してそうではない、とムキになって答えるのだ。
同情の余地はある。突出した選手の出来不出来に結果が左右されるのは、サッカーでは当たり前なのだから。
「だって、本田がいるのといないのじゃ大違いなんて、そんなの当たり前だろうが!」
ザックの心の声が聞こえてくるようだ。
それに、もし本田がいてもいなくてもいいサッカーができるのなら、本田を代表に呼ぶ必要もなくなってしまうし。