ボールピープルBACK NUMBER
中東で交わした日本代表論と
リオデジャネイロの空港の匂い。
~写真家・近藤篤、世界を往く~
text by
近藤篤Atsushi Kondo
photograph byAtsushi Kondo
posted2013/06/14 10:30
オマーン対日本戦の観客席で歌って踊りまくるサポーター達。試合中でも、スタンドは完全にお祭り騒ぎだ。
昔からのファンは、日本代表の強さに懐疑的過ぎる!?
とはいえ、20年前にドーハでイラクに引き分けてしまった頃に比べれば、日本代表はずいぶんと強くなった。“スッポン”と“月”だ。
とんでもなく強くなったわけではないけれど、少なくともアジア圏においてはもうこれから先、「もしW杯出場を逃したら……」なんて心配することもなくなるだろう(出場枠も増えたことだし)。
日本のサッカーファン、特に昔からのサッカー好きは弱かった時代のトラウマで、依然として自国のサッカーに懐疑的なところがある。アジアにおける強さに関しては、むしろ日本人よりも他国の人の方が正当に、あるいは過大に、評価してるのかもしれない。
「いやいや、エンドウがいるじゃないですか!」
オマーンのマスカットで行われた試合前日のことだ。ホテルの前から乗ったタクシーの運転手はこう話を振ってきた。
「ダンナ、あんた日本の人だよね。明日の試合はどうなると思うかね?」
「いやー、今回はオマーンにもチャンスあるんじゃないの? だって香川と内田いないし」
「いやいや、ホンダがいるじゃないですか!」
「でも、本田そんなに調子良くなさそうだし」
「いやいや、エンドウがいるじゃないですか!」
ちょっと補足しておくと、遠藤保仁のアジア諸国における知名度と評価はものすごく高い。ウズベキスタンでもそうだったし、カタールでもそうだったし、イエメンでもそうだった。意外とみなさん好みが玄人でいらっしゃる。
運転手が、試合のスコアを予想しろというので、僕は外交辞令的な意味合いも込めて、2-2と答え、ついでに彼の予想も尋ねた。
――あんたはどう思うんだ?
「2-1で日本の勝ち!」
なんだか、今から30年前、日韓戦を前にした20歳の自分を見せられているようだった。
超満員のブラジルの巨大スタジアムで日本代表は躍動できるか?
そんな最終予選での出来事を思い出しながら、水曜日の夜に成田を飛び立ち、途中ドバイの空港で4時間ほど免税店を眺め、26時間後にはリオデジャネイロに到着した。
空港名は「アントニオ・カルロス・ジョビン空港」だ。ボサノバの父にして、あの有名な「イパネマの娘」の作曲者である。
相変わらずこの空港に着くと、フルーツの腐乱したような、でもまったく不快ではない匂いと、人々が発する快活な性欲の(ような)匂いを感じる。ここで5時間トランジットして、第1戦の舞台ブラジリアに着くのは夜の9時過ぎ。そして二晩ぐっすり眠れば、いよいよコンフェデの開幕である。
間違いなく超満員のスタジアム、それもブラジル人だらけのスタジアムで、日本人はブラジル人相手にどんな試合を見せられるのだろうか。
ブロツワフ(0-4で完敗した地!)に続いて再びボコられるのか?
それとも空気を読まないで大健闘し、大会初日から開催国にケチをつけてしまうのか?
結果がどうであれ、この期待感はハンパじゃない。やはりサッカーは、世界で戦ってこそ、だ。
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