野球クロスロードBACK NUMBER
古巣・ロッテ相手に躍動して“恩返し”。
好調阪神を牽引する西岡剛の覚悟。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byNanae Suzuki
posted2013/05/27 12:50
3年ぶりに日本球界に戻ってきた西岡。今季、ほぼ全試合に出場し打率.314と、好調阪神を支える原動力となっている。
ライトスタンドの「ツヨシ」コールに2安打で恩返し。
5月22日――。
初回の第1打席、ロッテファンで埋め尽くされたライトスタンドから「ツヨシ」コールが沸き起こる。彼らの声を受け取った西岡も、バッターボックスに入る前にヘルメットを取り、深々と頭を下げる。
そして、プレーでもファンの声援に応えた。
この打席では外角低めのカーブを巧みにすくい上げるレフト前ヒット。続く第2打席でもヒットを放ち、この日3打数2安打。西岡は、自身の凱旋試合で“恩返し”を果たしたのだ。
試合後、西岡は穏やかな表情を浮かべながら古巣との対戦を振り返った。
「ここで育ててもらいましたからね。ロッテ球団、ロッテファンもそう。特別な思いはありますね。プロ初ヒットもこの球場だったし。足を踏み入れて気持ち良かったです」
'09年、一部ファンとの“衝突”で結果を出すことの重要性を学んだ。
ロッテに育ててもらった――。西岡が発するその言葉の意味は深い。
ファンに関して言えば、終始良好な関係を続けてきたわけではない。チームのスター選手であるが故に、時にその言動が誤解を招いてしまうこともあった。
象徴的な出来事を挙げるとすれば、'09年のバレンタイン監督の契約解除問題だ。これに不満を爆発させた一部のファンが、球団フロントへ向けて連日のように誹謗中傷の横断幕を掲げる。その光景を目の当たりにした西岡は、お立ち台で球団批判を止めるよう訴えかけたが、これが西岡とファンの間に軋轢を生むこととなった。最終的に大多数のファンの後押しなどによって一連の騒動は収束。それでも、この年、打率2割6分と低迷した西岡にとって、「選手としてパフォーマンスでファンを納得させなければならない」と、改めて決意する大きなきっかけになったことも事実だった。
主将となった翌'10年は大車輪の活躍を見せた。パ・リーグでは史上2人目となる200本安打に首位打者。ポストシーズンでも、リーグ3位から日本一へ上り詰める「史上最大の下剋上」に貢献した。
それだけに、オフになると、「自分のなかで一区切りついた。今度は夢を追いかけたい」と、ポスティングシステムによるメジャーリーグ挑戦を表明し、ツインズへ移籍したのはファンにとっては青天の霹靂だったかもしれない。