野次馬ライトスタンドBACK NUMBER
“横浜捕手暗黒時代”最後の希望、
高城俊人が谷繁に教えを請う日々。
text by
村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph by(C)YOKOHAMA DeNA BAYSTARS
posted2013/01/18 10:30
谷繁と並んで黙々とキャッチボールをこなす高城。谷繁の自主トレは、自宅のある神奈川県で行われており、その門戸を多くの選手達に開いているという。
谷繁の厳しい練習にボロボロになって食らいつく高城。
その後はキャッチボール、ティーバッティングを消化すると、フットワークを使った“ペッパー(捕球練習)”。ドラゴンズの3選手が50球をクリアしていく中、高城が41球でへたりこむと、谷繁から「それが19歳の体力かよ」との容赦なく発破がかかる。これで気合が入ったのか続くゴロでのペッパーでは足がガクガクになりながら執念で4人中唯一の100球超え。終わった頃には暫くの間ハイハイしかできないぐらい体力をすり減らしていたのだが、その口ぶりからは厳しくも充実した自主トレを過ごせていることが伺えた。
「ひとことで言えばキツイです。足が物凄い張ってます。谷繁さんも『俺も若い頃はキツイとしか思わなかったけど、それでもやり続けたら自分の力になる。キツイけど数をこなして身体で覚えるしかない』と言われました。谷繁さんはトレーニングのところどころで配球のこと、バッターの全体を見ていることとか、いろんな話をしてくれて、すごく自分のためになっています」
「とにかく開幕から全試合に出場することが目標です」
さらに谷繁からはこんな話があったという。
「『オマエ、このままいけば2、3年でレギュラー取れると、少しでも思っているだろ?』と言われたんです。『多少は』と答えたら、『俺も1年目に80試合出て、もう2、3年でレギュラー取れるなという感覚でやっていたら4年も掛かった。お前にはそれはやってほしくない。これからの2年は野球だけに死ぬ気で打ち込め』と言って貰いました。僕自身、去年あれだけ試合に出して貰えたからって、今年も開幕を一軍で迎えられるとは思っていません。チーム内には他にもいいキャッチャーの人がいるから、余裕がないというか、焦っています。この自主トレでやれることをやって、とにかく開幕から全試合に出場すること。開幕一軍でスタメンを取ることが目標です」
いい話だ。これだけで、失われていた谷繁成分が満たされていく気がしてしまう。この自主トレで高城が谷繁からどれだけのことを吸収できるかはわからないが、高城のこの姿勢と危機感を持っていることが嬉しくてならない。ベテランの鶴岡、一時は正捕手の座に手を懸けながらも逃してしまった黒羽根、細山田らプロの捕手として一日の長がある彼らも、今シーズン、死にもの狂いで正捕手の座を奪いに来るだろう。そんなことを考えると今シーズンが終わる頃には、ベイスターズでは長く空席のままだった正捕手争いに、ひとつの結論が出る気がするのだ。
最後に残された希望は高城か、それとも別の誰かなのか。
ギリシャ神話の方では最後の希望こそ最大の災厄である“偽りの希望”という説もあるらしいが。