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3年前にイチローは決断済みだった!?
第3回WBC出場辞退に至る心の流れ。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byNaoya Sanuki
posted2012/11/25 08:01
第2回WBCで、優勝セレモニーの後、じっとトロフィーを見つめていたイチロー。全力を尽くした後に訪れた優勝の感慨は、いかなるものだったのだろうか……。
2009年3月に開催されたWBC第2回大会の数カ月前、イチローを取材したときのことだ。まだ、イチロー自身も参加の表明をしていなかった。
取材の同席者が、アメリカは今回も本気じゃないですしね、と言うと、イチローは「そんなことないですよ」とやや語気を強めた。
そのリアクションに、ずいぶんと意外な感じがしたものだ。
確かに、その頃はまだアメリカの代表候補メンバーに錚々たる名前が挙がっていた時期ではあった。だが、客観的に見る限り、やはり第1回大会と同様に本気度は低いようにも感じられていた。
そのとき思ったのは、イチローがWBCに出るには、そこは重要な要素なのだなということだった。
「第2回大会を終えた時点で、3回目の出場は考えられませんでした」
日本の野球は、アメリカのベースボールよりも劣る――。その説に、せめてもの抵抗を試みる。それがイチローのWBCへ参加するモチベーションのひとつになっていたことは間違いない。
だからこそ、第1回大会で敗退したアメリカは2回目は本気でくると、自分に信じ込ませる必要があったのではないか。
ところが実際のアメリカ代表チームは、メンバーはそれなりにそろっていたものの、仕上がり具合、プレー態度を見る限り、やはり、心底本気で戦っているようには映らなかった。
そこは我々以上に、アメリカと実際に戦った選手たちの方が肌で感じていたことだろう。
「今回もWBC日本代表として声を掛けていただいたことに感謝しています。ただ、僕の中で'09年の第2回大会を終えた時点で、3回目の出場は考えられませんでした。今日までその気持ちが変わることはなく、こういう形になりました」
イチローは、第3回大会を辞退する理由をこう語ったという。その真意は、つまりはこういうことではなかったか。
一度負けてもアメリカは本気にならなかった。だったら今度も同じだろう、と。