野球善哉BACK NUMBER
プロか、大学か、社会人か……。
ドラフト当落線上、高卒選手の野球道。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2012/11/22 10:30
夏の甲子園では、藤浪晋太郎の149キロの直球をスタンドに運んでいる吉村昴裕(天理)。プロ志望を表明した後、阪神やオリックスが動いているという噂もあったのだが……。
2012年のプロ野球ドラフト会議。
プロからの指名を受けたアマチュアの選手は、育成枠を含めると総勢83人に上った。
特に、複雑な心境でドラフトを待ったのは「当落線上」と言われていた選手たちだった。もちろん、指名から漏れた選手も含めてのことだ。高卒プロを選ぶのか、大学進学か、社会人入りか――。
ドラフトを迎える過程の中で、「当落線上」だからゆえの、葛藤が彼らにはあった。
「改めて、勉強になったドラフトでした。プロ一本に絞らせても良かったのかもしれません」
智弁学園(奈良)の小坂将商監督は、教え子をプロの世界へと送り出せなかった今年のドラフトをそう振り返っている。
智弁学園にはプロからの指名が噂された選手がいた。
マウンドに立てば、140キロのストレートと多彩な変化球を駆使した老獪なピッチング。打席に入れば左右に打ち分けるバットコントロールと積極的な走塁を持ち味とする、青山大紀である。
青山は智弁学園入学後、すぐにレギュラーとなり、近畿圏内で騒がれる存在となった。2年の夏には甲子園に出場、ベスト8に入る。同秋には近畿大会を制して、3年春にはセンバツに出場するなど、実績は十分だった。投打の選択に難しさを残すとはいえ、どちらにも能力のある選手はプロ球団側にとっては、指名しやすいはずの選手だった。
しかし――。
先月のドラフトで、青山の名前は挙がらなかった。
「指名順位が4位以下なら、プロ入りを諦め、社会人入りする」
理由はある。
関西担当のプロ野球スカウトたちは、口をそろえていう。
「青山は3位までいう話だったので、決断が難しかった。周りとの兼ね合いもあるからね。でも、4、5位だったらね、間違いなく指名されている選手だよ」
ドラフト以前、青山は基準を定めていたのだ。
「指名順位が4位以下なら、プロ入りを諦め、社会人入りする」というものだった。
小坂が解説する。
「青山はプロ志望だったんですけど、指名がなかった時のことを考えておかなければいけなかった。社会人でコーチをしている後輩に頼んだところ、ドラフトが終わってからでも青山を獲ってくれるということになった。ただ、『何位までの指名がなければ』いう基準があった方が良いと言われていたので、それを本人に決めさせたんです」
青山は「3位」と決めた。
そして、結局、その設定が青山の選択肢を狭めることになってしまったのである。