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ストレート勝負の本格派に変身中!
松坂大輔は魅力的な“悪女”である。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKYODO
posted2010/06/13 08:00
日米通算150勝についてイチローが「遅いでしょ」とコメントしたことに対して、「僕もそう思う。自分が思っていたより2年くらい遅いですから」と答えた松坂
松坂大輔は、まるで悪女のようだ。
素晴らしい投球を見せ、「こりゃ、今年は本物に違いない」と思った途端、次の登板ではその期待を手ひどく裏切る。
ああ、やっぱりアテにしちゃいけないんだ……と思って次の登板を見守ると、それはそれは魅力的な投球を披露する。
困ったものである。
レッドソックス・ファンは、今季ここまで、「いい松坂」と「悪い松坂」が交互に出現するので、どちらの松坂を信じればいいのか、とまどっているはずだ。
ただ、これだけは言える。
今季の投球を見る限り、松坂は魅力的なメジャーリーガーに変身しつつある――ということを。
ストレートが主体の、昨季とはうって変わった投球内容。
なぜ、今季の松坂が魅力的かと言えば、投球内容が昨季までとはがらっと変わったからである。
昨季と比べて大きく違っているのは、ストレートを投げる比率が圧倒的に増えていることだ。
シーズン | ストレート | スライダー | カッター | カーブ | チェンジアップ | スプリッター |
---|---|---|---|---|---|---|
2007年 | 52.7% (91.9) | 17.2% (82.3) | 14.6% (86.9) | 5.1% (77.4) | 4.7% (80.9) | 5.8% (82.8) |
2008年 | 52.2% (91.8) | 23.1% (81.7) | 15.0% (88.6) | 4.1% (78.5) | 3.8% (82.2) | 1.8% (82.9) |
2009年 | 53.8% (91.1) | 20.1% (81.7) | 16.3% (88.3) | 1.7% (79.4) | 5.6% (81.1) | 2.5% (82.0) |
2010年 | 59.9% (92.0) | 19.6% (81.7) | 11.8% (89.8) | 0.8% (77.7) | 7.9% (81.9) | |
トータル | 53.3% (91.8) | 19.9% (81.9) | 14.7% (88.0) | 3.9% (78.0) | 4.8% (81.5) | 3.4% (82.7) |
昨季まではストレートの割合は50%をようやく超える程度だったが、今季は60%近くがストレート。調子のいい時は、テンポよくストレートを投げ込み、これがストライクになっていく。
ではメジャーリーグの本格派と呼ばれる投手だと、ストレートの比率はどれくらいなのか? おおよそ65%前後、3球に2球がストレートの組み立てになる。引退してしまったロジャー・クレメンスはキャリアを通じて64%という数字が残っているが、最盛期は70%近くをストレートで押していた。速球に自信がないと出来ない芸当だ。
では、変化球主体の組み立てをする投手はどうか。ドジャースの黒田博樹を例に取ってみると、今季のストレートの割合は52%。得意のスライダーは35%にもなり、黒田は変化球を多投する「ブレイキング・ボール・ピッチャー」に分類される。
松坂も昨季までは変化球投手だった。18勝をマークした2008年にはスライダー、カッター(カットボール)を投げる割合が38%にも上っていた。それで結果が出ていたのだ。
興味深いのは、なぜ今季になって松坂はストレートの比率を上げたのか、ということだ。