詳説日本野球研究BACK NUMBER
優勝の秘密は“バランス感覚”にあり!
巨人の絶妙なドラフト戦略を読み解く。
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2012/10/03 10:30
東海大では首都大学リーグで通算37勝4敗、防御率0.57の成績を挙げた最速157km右腕の菅野智之。今季は大学に籍を残し、走り込みや投げ込みの強化トレーニングを続けてきた。
長野、澤村の実質的な逆指名は「卑怯」だったのか?
ドラフトに目を転じると、'09、'10年に長野(Honda)、澤村(中大)を1位で単独指名し、「卑怯だ」「巨人は汚い」と批判が集まった。しかし、'09年は菊池雄星(花巻東→西武)、'10年は大石達也(早大→西武)という超人気選手がいたこともあり、早い段階で長野、澤村の1位指名を決めた巨人に対して冷笑する空気があった。
長野に関しては大学経由の社会人野手に対する歴史的な低評価があり、澤村に関してはドラフト前、「三振が取れない」「ストレートが低めに伸びない」などネガティブな評価が乱れ飛んでいた。野球ファンもマスコミも2人のその後の活躍がめざましいためか当時の低評価を忘れがちだが、ガチガチの超人気選手を囲って指名した、というのは事実ではない。むしろ、長野、澤村の「巨人に入りたい」との思いを汲み取って1位指名で報いた。
名球会クラスにまで大成するのは高卒選手が圧倒的。
大学生&社会人と高校生のバランスもいい。まず即戦力になる確率、選手として失敗しない確率は大学卒、社会人出身者のほうが圧倒的に高い。高校卒選手は即戦力度ばかりではなく、生涯を通じての一軍定着率も低い。しかし重要なのは、大きく成功する確率は高校卒選手が圧倒的に高いということ。たとえば2000本安打、200勝投手の顔ぶれは高校卒選手が圧倒的に多い。
2000本安打には歴代41人が到達し、このうち大学卒・社会人出身者は16人とまあまあの数だが、25位以下の17人の中に8人が密集して、上位はほとんど高校卒で占められている。200勝投手は野茂英雄を入れて25人いて、このうち大学卒・社会人出身者は7人しかいない(別所毅彦、野口二郎は高校卒扱い)。
大学卒より4年早くプロ野球に入団できるから通算成績がいいというのは半分本当で半分嘘だ。大学卒、社会人は即戦力の働きを期待されていることもあり、「投手なら7~10勝、野手なら100試合出場して100安打以上」と、具体的なハードルを自らに課すことが多い。それに対して高校卒は「将来のエース、将来の中軸」と、具体的ではないが、目標を大きく設定するきらいがある。高校卒選手の失敗が多く、大きく成功することも多いのは、この入団時の目標設定によるところが大きいと私は思っている。