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モウリーニョの新天地とレアルの改造。
~スペクタクルからリアリズムへ~ 

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芝山幹郎

芝山幹郎Mikio Shibayama

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photograph byReal Madrid via Getty Images

posted2010/06/08 10:30

モウリーニョの新天地とレアルの改造。~スペクタクルからリアリズムへ~<Number Web> photograph by Real Madrid via Getty Images

レアルのペレス会長と契約終了後のツーショト。会見では「監督としての能力には自信がある」と豪語した

 走るサッカーと考えるサッカーの戦いなら、後者に味方したい。運動神経の発達したサッカーと知恵を駆使したサッカーの戦いなら、後者を支持したい。スペクタクルな展開を標榜するサッカーとリアリズムに徹するサッカーの戦いでも、後者を応援したい。

 大雑把にいうと、これが私のサッカー観だ。聞こえたか、岡田武史。もっと具体的にいえば、これはジョゼ・モウリーニョの味方につく理由だ。彼は楽しい。彼は刺激的だ。極端にいうなら、モウリーニョのなかでは「時代の先端を行くサッカー」と「反時代的なサッカー」が混じり合っている。時代の先端を行くだけなら、バルサのコピーになってしまう。反時代的なサッカーにとどまっていたらバルサは倒せない。この二重性があるからこそ、彼には飽きが来ないのだ。

全権を委譲されたモウリーニョは4年間でレアルを改造する。

 そんなモウリーニョが、とうとうレアル・マドリードと正式契約を交わした。4年契約の年俸約12億円。金額には驚かないが、期間には軽い驚きを覚えた。これだけ時間があれば、チームは改造できる。彼がポルトの監督に就任したときは、2年で欧州王者の地位を射止めた。チェルシーでは3年かけても欧州王者に届かなかったが、プレミアの覇権は1年目で手にした。レアルが「4年」という数字を提示したのは、モウリーニョが監督就任に当たって要求した「全権委譲」をクラブ側が受け入れたということか。

 私はわくわくする。この数年、「銀河系軍団」などという金満家の妄想に魂を売りつづけてきた名門が、ようやく本気でフットボールのチームを形成しようとしている。「スペクタクル」の内実も問い直されるにちがいない。

新生レアルの守備の要はブラジル代表のマイコンか?

 そこで気になるのが、モウリーニョのチーム改造術だ。より具体的にいうなら、新戦力としてだれを連れてくるかだ。

 真っ先に考えられるのは、マイコン(ブラジル代表、28歳)だろう。攻めてよし守ってよしの右サイドバックは、インテル欧州制覇の原動力だったが、彼にはゲームを引き締める力と攻めの起点になる力がある。高年俸はネックだが、レアルの守備陣立て直しの切り札になることはまちがいない。現在右サイドを守るセルヒオ・ラモスは、センターバックにまわることになるのではないか。

 ディフェンダーにはあとふたり候補者がいる。ひとりはラツィオのアレクサンダー・コラロフ。セルビア代表の24歳だが、左足の破壊力で「東欧のロベルト・カルロス」と呼ばれる。センターバックと左サイドバックの両方をこなせるのは、この選手の強みだ。

 もうひとりは、お馴染みのポルトガル代表リカルド・カルバーリョだ。32歳と年はとったが、ポルトでもチェルシーでもモウリーニョを支えつづけてきた名脇役だ。バックアップにまわれば非常に心強い。

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