プロ野球亭日乗BACK NUMBER
2年越しの“恋人”に非情采配のムチ。
原監督が村田に厳しい本当の理由。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2012/09/17 08:01
丸刈りにしてバッティング練習を行う村田の先には原監督の視線が……。今季の成績は、打率.260、11本塁打、52打点(9月13日現在)。得点圏打率は.239と、期待の高さからするとやや物足りなさが残る。
2年越しの“恋人”村田を獲得した原監督の思い。
それは村田を獲得するにあたっての複雑な経緯だった。
昨オフに巨人移籍を実現した村田が、原監督にとっては2年越しの“恋人”だったということは、以前にこのコラムでも書いたことがあったと思う。小笠原道大内野手の守備力が落ち、一塁へのコンバートを決断した一昨年のオフに、原監督はFAとなった村田の獲得をフロントに進言した。
三塁手を固定できなければ、レギュラーが決まっていない二塁とともに、内野で2つのポジションが不確定になってしまう。それを避けるためには、ケガも少ない村田はうってつけの存在だと考えたからだ。
ところがこの案はフロントに却下され、三塁は外国人選手の補強でカバーするとしてラスティ・ライアル内野手をあてがわれたという経緯があった。結果はライアルは日本の野球になじめないままに1年で解雇となり、三塁手はとっかえひっかえ、原監督が最も懸念していた起用にならざるを得なかったわけである。
そうして昨オフ、原監督は改めて村田の獲得を求めたが、それでもフロントから異論がなかったわけではなかった。
特別な感情で贔屓するのではなく、特別な感情で厳しく接する。
もともと「男・村田」と自称して、やんちゃなキャラクターを前面に押し出す村田には、「巨人のチームカラーが合わない」という声が球団内部でも少なくなかった。加えて村田獲得に消極的な人々が挙げた最大の理由は「チャンスに弱い」ということだった。昨年の得点圏打率は1割9分6厘と規定打席到達打者の中では両リーグワーストだったのだ。
そうした点を指摘する声は多かったが、それでも原監督は「素行や起用は自分が責任を持つ」と村田獲得を求め、ようやく実現にこぎつけたということだった。
監督が一選手に特別な感情を持って接するのは基本的には「なし」である。
ただ、もしそれがあるとすれば、特別な感情で“贔屓”するのではなく、特別な感情で厳しく接するときで、これはスポーツの世界ではよくあることでもあるのだ。