プロ野球亭日乗BACK NUMBER
ビッグネーム獲得で若手が育つ?
巨人、大型補強の真の狙いとは。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byKYODO
posted2012/02/19 08:01
即戦力・村田修一のFA加入で、生え抜きである大田泰示の思い切った起用が可能となった。FAと若手育成を組み合わせることでより一層の戦力補強が実現するのである
勝利と育成。
監督とは総じて、この二律背反するテーマを追い求めて苦悩するものである。
「昔は勝手に選手が自分で這い上がってきた。選手は育てるのではなく、育つものだったけど、最近は手とり足とり、ときには後ろから選手のお尻を押して山を登らせなくちゃならない。いい、悪いということじゃなくて、そういう時代なんや」
楽天の星野仙一監督が、昨今の選手気質をこう評していたことがある。
もちろん今の時代にも勝手に山を登れる選手はいる。
例えば巨人の長野久義外野手はそんな選手の一人だった。
社会人からドラフト1位で入団したのだから、チームにとっては出てきてくれないと困る選手だった。だが、1年目のキャンプでは、こと打撃に関しては疑問を投げかける声も少なくなかった。苦手の内角を克服するために極端にホームベースから離れて立つスタイルでは、逆にプロの外角の変化球に対応できないのではないか……。そんな声を跳ねのけて長野は1年目から相手の配球を読み、踏み込んで外角の甘い球は逃さずに右方向に打って結果を残した。極度のスランプもなく、首脳陣が黙って使える選手だったのだ。
こうして自分で結果を残し、2年目の昨シーズンには首位打者も獲得。勝手に育って一流の世界に手をかけた選手だった。
チームの引き立てを受けた「8番、ショート、坂本」。
一方、巨人の坂本勇人内野手の場合は、ちょっと違う。もちろん本人の持つ類まれな素質と努力が土台にあるのだが、もう一つ、チーム環境が整い、首脳陣が意識して育成を手掛けたことでレギュラーの座をつかんだ選手ということができる。
「一軍に定着した2年目、“8番、ショート、坂本”というのは、他の選手、みんなが守ってできたことだった。そういう環境を他の選手が作ってくれたということなんです」
巨人の原辰徳監督は振り返る。
坂本はプロ2年目、2008年のキャンプ、オープン戦で結果を残して開幕を一軍で迎えた。そして開幕戦の直前にショートのレギュラーだった二岡智宏内野手のケガをきっかけに、開幕直後には「8番、ショート」の定位置までを手に入れた。