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<ナンバーW杯傑作選/'09年7月掲載> 岡田武史 「ベスト4の理由」 ~現実主義者が掲げた夢の真相~
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byTamon Matsuzono
posted2010/06/02 10:30
チームに持ち込んだ6つのフィロソフィー。
――ウズベキスタン戦では?
「レフェリーや芝、選手のコンディションの問題もあって、当然、ミスが増えればうまくいかないことのほうが多いんだけど、あの試合に関してはボール際の甘さとか、走られたらついていくとか、勝負に対する隙がなかった。だから、やられる気はまったくしなかった。ウズベキスタン戦というのはコンセプトどうこうよりも、みんながW杯に行きたい、勝ちたいという気持ちが、勝負に対する厳しさを出してくれたと思っています」
――コンセプトとはまた別に、監督はフィロソフィーをチームに持ち込んだ。ENJOY(楽しめ)、OUR TEAM(我々のチーム)、DO YOUR BEST(最善を尽くせ)、CONCENTRATION(集中)、COMMUNICATION(意思疎通)、IMPROVE(進歩)の6つ。この意図は?
「代表チームというのはいつも集まるわけではなくて、それに選手たちにはホームクラブがある。代表に呼ばれたから来て、次、落とされるかもしれないな、というような気持ちで来ている選手もいないわけじゃない。やっぱりそうじゃなくて、ここに来たらこのチームの一員なんだ、と共通意識を持たせようと思って始めたこと。昨年8月にウルグアイと札幌で試合をしたとき、散々な結果なんだけど、みんな淡々と帰っていった。試合に出なさいって言われて出ました、負けたけど、僕は自分のチームに帰りますというような……誰もこのチームに対する責任感がないように思えたんです。このままじゃ何回集まっても、同じような繰り返しになってしまう。そう思ってウルグアイに負けた後につくった」
合流できない選手には国内外を問わず手紙を送った。
――宿舎に紙を貼って意識づけさせ、合流できない海外の選手には、フィロソフィーを書きこんだ手紙を送ったこともあるとか。
「それだけじゃなくて、こういうミーティングをしている、こういうコンセプトでやっているというのを(手紙で)伝えたんです。全員に共通した内容もあれば、個別の内容もある。海外の選手だけじゃなくて、ACLで招集できなかった国内の選手にも、手紙やDVDを送ったりしている。(手ごたえというのは)ウズベキスタン戦だけの話ではなくて、段々とチームらしく、自分たちのチームになってきているという感触を持つようになりました。だからこそ、あんな状況でもウズベキスタンに勝てたと思うんですよ。いいチームになってきたな、という感じを受けています」
陸上競技などをヒントにした体幹トレーニングの導入。
岡田の視線は、既に本大会にある。
1年後を見据えた指揮官の行動は挑戦的かつ迅速だ。日本人の特性である敏捷性と、勤勉性をいかすため――。
実験的な試みの一つが、体幹トレーニングの導入であろう。練習前のアップで、陸上競技、武道、体操などからヒントを得て、キリンカップから本格的に取り入れている。体幹を使っての屈伸、開脚を含めた目新しいものではないが、敏捷性のアップにつながると踏んでいるのだ。
次に勤勉性という点では、何より豊富な運動量が前提となる。まずもって本大会でのコンディションが悪ければ、存分に走れるよしもない。岡田はカタール戦後に中村俊輔、長谷部誠、本田圭佑ら欧州でプレーした選手に休養を与えた。さらに合宿中に体調を崩した内田篤人をウズベキスタン戦で欠場させるなど、一貫して無理はさせなかった。ここで体調を崩して長引かせてしまえば、将来的にマイナスになる可能性があると判断したからにほかならない。コンフェデレーションズカップの視察で南アフリカを訪れるなど、1年後に向けた準備は、着々と進められている。