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<“五輪から3カ月”特別連載(2)> クロスカントリー・夏見円 「自分らしくスタートに立つ!」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byShino Seki
posted2010/05/18 06:00
「わくわくして眠れなかった」スプリントで27位と惨敗。
2月17日、スプリントを迎えた。予選22番手で決勝トーナメントに進むが、準々決勝でペースが上がらず、一人置いていかれる形となった。組の最下位の6位で準決勝に進めず、27位に終わった。
レース後、涙を流しながら語った。
「まだレースがあるので挽回したいです」
手ごたえを得ていたはずなのに、なぜ走りに表れなかったのか。
夏見は言う。
「試合の前夜、眠れなかったんです。何百も試合をしていますが、初めてのことでしたね」
ようやく眠りについたと思えばすぐに起きてしまう。気づけば夜が明けていた。
その影響で、予選突破後、トーナメントに入るまでの空き時間に強い眠気に襲われた。
「そうなると、レースに備えるべきなのに、なんで寝れなかったんだろうとしか考えられなくて」
何が睡眠を妨げたのか。
尋ねると、意外な答えが返ってきた。
「不安があったというより、わくわくして眠れなかった気がします。ようやく体調が回復して、自分らしい走りができるようになってきていたことで……」
調子が上がっていると感じたことが、思わぬ方に転がったのだ。
どん底の状態で自分に何ができるかを必死に考えた。
スプリントから5日後の22日、福田修子とチームスプリントに出場する。同じコンビで、トリノでは8位入賞を果たしている。
挽回を期したレースだったが、やはり思うような走りができなかった。結果、13位。レース後は、スプリントのとき以上に消耗しているかのような表情だった。
それでもその3日後には、4×5kmリレーが控えている。夏見は一走を務めることになっていた。チームの目標は入賞である。
「そのために自分がやらないといけないことは、トップから30秒以内でつなぐことだ」
でも、自分らしい走りはここまでできていない。今の自分に何ができるか、必死に考えた。やがてひとつの思いに達した。
「この状態で最大限に力を発揮できるのは、あきらめない気持ちしかない。そう思ったんですね」