欧州CL通信BACK NUMBER
ドログバ、名誉挽回のラストチャンス。
チェルシー悲願のCL初制覇なるか!?
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byTakuya Sugiyama
posted2012/05/18 10:32
2008-09年の欧州CL準決勝バルセロナ戦で、PKをとらなかった主審に喰ってかかりイエローカードを出されてしまったディディエ・ドログバ。この年のチェルシーは、負けていないにもかかわらずアウェーゴール裁定で決勝進出を逃している。
名誉挽回の好機にかけるドログバの心中や、いかに!?
片や、守備面での好材料は、最後尾に控えるペトル・チェフの好調。8年来の守護神は、自身の今季国内最終戦となった5日のFAカップ決勝でも、起死回生のセーブでチェルシー優勝に貢献している。
左SBにはアシュリー・コールが健在。バルセロナ戦でダニエウ・アウベスをノーファウルで抑えた守備力で、フィリップ・ラームのオーバーラップにも対応するだろう。ラームが背後に残すスペースは、ランパードが得意とするドログバへの縦パス1本でつくことができる。自軍の1トップは、ボランチを務めるルイス・グスタボの欠場で、最終ライン手前の守備力も弱まるバイエルンを相手に存在感を発揮するはずだ。
ドログバは、CL優勝への意気込みでもチーム随一だと言える。2008年決勝の雪辱といえば、PK戦で決めていれば優勝となるキックを外したテリーが想像される。だが、エースのドログバが無駄なレッドカードで退場さえしていなければ、代わりに蹴ることになったキャプテンが雨のピッチで足を滑らせ涙に暮れる必要もなかったのだ。
今夏で契約満了の34歳は、チェルシーの2.7倍相当の年俸と、チェルシーが渋っている複数年契約を餌に、上海から移籍を乞われている。「希望はチェルシー残留」と言う本人の願いが叶ったとしても、より若いフェルナンド・トーレスと、獲得が予想される新FW陣の控え役に回る事態は避け難い。主役としてのCL決勝における名誉挽回は、今回が最大にして最後のチャンスだ。
チェルシー不利の下馬評を覆し、有終の美を飾れるか?
下馬評では、チェルシー不利の声が強い。レギュラー陣4名の欠場と、CB不足の不安に加え、アリアンツ・アレナをホームとするバイエルンには、正真正銘のホーム・アドバンテージが予想されるのだから無理もない。
だが、チェルシーは、ピッチの内外で数的な不利を背負いながら、決勝進出を決めたカンプノウでの準決勝第2レグで、逆境中の逆境をはねのけてみせた。バルセロナを合計3対2で下した直後、交代出場したトーレスの下に一目散に駆け寄って、ポジションを争うライバルのゴールを祝福し、TVカメラの前で「もはや俺たちに不可能はない」と語ったドログバは、優勝を目指す集団の一体感と精神力の強さを示すシンボルでもある。
チェルシーでは、決勝での勝敗にかかわらず、一時代に終止符が打たれることは間違いない。流麗な攻撃サッカーを好むオーナーは、バルセロナを退任したペップ・グアルディオラの招聘を諦めていないとされる。新監督が誰になるにせよ、来季以降は、今季途中で棚上げされたスタイル変更と世代交代が、改めて推進されるだろう。
ハンディを背負って敵地に乗り込む、逆境のCL決勝。
最前線のドログバに体現される「質実剛健なチェルシー」が、初優勝で有終の美を飾るための舞台は整った。