スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
ビジャレアル、まさかの降格。
リーガの優等生を襲った悲劇とは。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byMARCA MEDIA/AFLO
posted2012/05/17 10:31
降格が決まり、スタジアムの外で打ちひしがれるビジャレアルサポーター。
ビジャレアルの本拠地エル・マドリガル。ファルカオの強烈なヘディングがディエゴ・ロペスの右手を弾き、ゴールネットを揺らす。それを見たフェルナンド・ロイグ会長はスタンドで頭をもたげ、両手で顔を覆ってしばし俯いた。88分のことだった。
その3分後、ラージョ・バジェカーノの本拠地テレサ・リベロ。ラージョのラウール・タムードがグラナダ相手に決勝ゴールを決めたのとほぼ時を同じくして、ビジャレアルのFWマルコ・ルベンが放ったヘディングシュートがゴールポストの僅か左に流れていく。
ビジャレアルが降格圏に転落した瞬間だった。
もう限界だと言わんばかりに席を立ち、まるで夢遊病者のようにふらふらとスタンドの階段を下りていくロイグ。
ほどなく試合は終了し、ビジャレアルの13年ぶりの2部降格が決まった。
相次ぐケガ人、機能しない新戦力、裏目に出た監督人事……。
なぜビジャレアルは降格したのか。
今季の失敗を語る上で多くの人が真っ先に挙げるのは、攻撃の要であるサンティ・カソルラの放出だ。彼の離脱がどれだけ痛手だったのかは、移籍先のマラガがクラブ史上初のCL出場権を獲得したという事実がよく示している。
だが資金難に苦しむクラブにとって、彼の放出は「トップリーグで戦いながら経済バランスを保つには必要な決断だった」とロイグは言う。むしろ誤算は彼の売却で得た移籍金2000万ユーロの活用に失敗したこと。ハビエル・カムニャス、ジョナサン・デグスマン、クリスティアン・サパタら新戦力が揃って期待外れに終わり、ほとんどチームにプラスアルファをもたらせなかったのである。
しかも今季はケガ人の多さが異常だった。
カソルラ放出の代わりに、他クラブからの高額オファーを断ってまで残留させたエースのジュゼッペ・ロッシは右膝の前十字靱帯断裂でシーズンの大半を棒に振った。さらにシーズン前半はニウマール、マルコ・ルベン、カニ、マルコス・セナら主力メンバーの大半がケガに襲われる中、リーガと並行してバイエルン、マンチェスター・シティ、ナポリと同居するCLの「死のグループ」を戦わなければならなかった。
そのような状況下で結果が出ないのは、いわば自然なことだった。