野球善哉BACK NUMBER
交流戦で堪能したい盗塁を巡る攻防。
捕手vs.走者の名勝負はどれだ?
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2011/05/25 12:55
2009年春に椎間板ヘルニアの手術を受けているオリックスの伊藤光。この年は一、二軍ともに試合出場は0という、地獄を味わった。翌2010年から徐々に実戦復帰し、今年は一軍定着を目指すまでに復活した
強肩を誇る若きオリックスの頭脳・伊藤光捕手。
その男こそ、オリックスの若き司令塔・伊藤光である。
プロ4年目の伊藤は明徳義塾高時代から強肩が売りの捕手だった。2年目に患った腰の怪我による長いリハビリ生活を乗り越え、今季は初の開幕一軍入りを果たしていた。
強肩とさらには強気なリードを武器に開幕ではスタメンマスクを獲得。その後、一度は二軍落ちしたが、チーム随一の肩を持つ伊藤の存在は、特にスピードが増している今季にあっては不可欠なものと見なされていた。交流戦の2カード目から、再び伊藤は一軍に昇格していた。
1回表1死、広島は左翼前安打で出塁した東出が仕掛ける。
ワンバウンドでボールを処理した伊藤はとっさに二塁へ投げ込んだが、東出は悠々セーフ。そのタイムは、2.06秒。プロの捕手としては許されない数字である。
この時のことを、伊藤は次のように振り返っている。
「ワンバウンドだったということもあって、ちょっと力んでしまいました。良いスローイングではなかった」
これで広島ベンチは「行ける」とふんだのだろう。広島の仕掛けはここから怒涛のごとく続くことになる。
ついに盗塁王・梵英心が盗塁を仕掛けた!!
3回表、今度は昨シーズンのセ・リーグ盗塁王・梵英心が仕掛ける。伊藤は準備していたかのように好タイムを記録。1.79秒のストライク送球。
しかし、梵も負けてはいない。
両者のプレーにプロの技を見た。タイミングは際どかったが、梵がベース際で上手く滑りこみ、判定はセーフ。天を仰ぐ伊藤。その姿からは送球が完ぺきだった手応えとアウトにできなかった悔しさがにじみ出ていた。
再び、伊藤の回想。
「梵さんの時の送球は完璧でした。アウトかなと思ったんですけど、スライディングで上手くかいくぐられましたね」
その言葉には、結果はセーフだったとはいえ送球への自信が伺えた。
5回表には、1死一、三塁で一塁走者の天谷が余裕の盗塁を決めたが、対決と呼べるような間合いにはならず。
そして7回。再び痺れるような名勝負が出現した。