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「痛みが邪魔をするので…」松坂大輔が語るイチローとの“最後の対決”…メッツ移籍の舞台裏は?〜連載「怪物秘録」第46回〜

2024/06/25
'13年、ボストンに別れを告げた怪物はマイナー契約でインディアンズへ移籍する。しかし好投しても昇格できないもどかしさを抱え、シーズン中にメッツへと渡った。

 2012年10月3日、松坂大輔はレッドソックスのシーズン最終戦に先発した。ヤンキースタジアムで2本のホームランを浴び、5点を失った松坂は3回途中でマウンドを降りる。最下位のレッドソックスは大敗を喫し、この日、ヤンキースが地区優勝を決めた。6月に復帰してから11試合に先発し、1勝(7敗)に終わった松坂はレッドソックスとの6年契約を終えた。

◆◆◆

 登板前夜からニューヨークには霧雨が降っていて、やたらと蒸し暑かったんです。湿気はヒジにいい影響を与えない……じつは僕、アメリカに行ってからは雨が降ったあとのマウンドが好きでした。土が柔らかくなって、僕の投げ方でもスパイクがいい感じで動いてくれましたからね。でも、あのときは湿気がヒジに厳し過ぎました。

 ヤンキースにはイチローさんがいて、思えばこのときの対戦が最後になりました。サードフライとファーストゴロですか……ボールが高めにいっているのは腕が振り切れなかったからです。腕を振り切ろうとすると痛みが邪魔をするので、セーブしながら投げるしかありませんでした。変化球を投げるときも速く振れないんですよ。僕は緩い変化球を投げるときはストレートよりも腕を速く振ることを意識してたんですが、それがまったくできない状態でした。

 ディビジョンの優勝を決めて、イチローさんがクラブハウスでシャンパンファイトをしていた頃、僕はビジターのクラブハウスでメディアの人に囲まれて「レッドソックスに残れる可能性は限りなくゼロに近い」と話しました。自分の中で次の年につなげられる何かを残せたという自覚があれば、ああいう言葉は出てこなかったと思います。チームに残るためのものを何も残せなかった……そんな感覚でした。

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photograph by Kiichi Matsumoto

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