プロ野球選手としての最後の日がやって来た。2021年10月19日、松坂大輔が336度目となる先発のマウンドへ上がる。長年、慣れ親しんだ所沢のマウンドで、背番号18をつけたライオンズのユニフォームを着て、横浜高校の後輩でもあるファイターズの1番バッター、近藤健介を相手に――松坂は振りかぶった。
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前の年、首の手術を受けてからは左肩にも力が入らなくなって、振りかぶるのもしんどかったんです。でも、それだけは最後までこだわりたかったので頑張って振りかぶりました。振りかぶるのって、カッコいいじゃないですか。それは桑田(真澄)さんの影響です。僕は子どもの頃から桑田さんの投げ方が好きで、あの振りかぶり方が好きだったので、真似していました。
ただ、あの日の最後のマウンド、思い浮かぶのは投げているところではないんです。ブルペンで準備しているところ、投げ終わってみんなでマウンドに集まっているところ、グラウンドを一周しているところ……肝心の投げている姿がどうしても浮かんできません。試合前のブルペンではどうやってストライクを投げようかと、それしか考えられませんでした。まっすぐがストライクにならなくて、変化球のほうがまだマシだったんで、(キャッチャーの森)友哉から『どうしますか』って訊かれたとき、『まっすぐで行こう、ストライクが入らないかもしれないけど』と答えました。
5球投げてストライクが1球、ボールが4球。5球すべてがストレートで、最後はフォアボールでした。僕にしてみればあれ以上の結果はなかったと思っています。2球目が最初で最後のストライクになったのは、今までやってきたことへのご褒美だったのかな。最速は……118km(笑)。どこまで18がついて回るんだよと思いました。ああやって実際に投げてみて、そうだよな、こういう球しか投げられないからやめるんだよな、と納得もさせられました。
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