#1014
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《ダルビッシュは“知”の旗手》MLBの歴史をけん引してきた“剛”と“知”の系譜とは?“頭脳派”サイ・ヤング賞投手の歴史を読み解く
2024/09/06
卓越した制球術で打者を翻弄し打ち取る。力任せの「剛」ではなく「知」でその名をメジャーの歴史に刻んだ投手たちの系譜を辿る。(初出:Number1014号知よく剛を制す 頭脳派サイ・ヤング賞投手の系譜。)
1988年、ワールドシリーズのMVPに輝いたのはドジャースのオレル・ハーシュハイザーだった。2試合に先発して2勝0敗、防御率1.00。数字はもちろん、高度な知性で打者を寄せつけない気配が漂っていた。対戦相手アスレティックスの名将トニー・ラルーサは、投手コーチのデイヴ・ダンカンにこう呟いたそうだ。「あいつ、昔の凄いピッチャーに似ていないか」。
凄い投手とは、トム・シーヴァーのことだ。今年8月に75歳で世を去ったシーヴァーは「史上最も頭のよい投手」と尊敬された。通算311勝。奪三振3640。
右膝にマウンドの土がつくほど身体を沈めて投げるため、球のリリースポイントは非常に低い。その速球が、打者の胸もとで二段ロケットのように浮き上がる。このフォーシームと、右打者の外角へ急速に逃げていくスライダーを組み合わせ、シーヴァーは面白いように三振の山を築いた。
「史上最も頭のよい投手」と似ているダルビッシュ。
ダルビッシュ有が内角高目の速球や外角低目のスライダーで三振を奪うたび、私はシーヴァーの姿を連想する。体型はちがう。モーションもちがう。体型でいえば、ダルビッシュの好敵手トレヴァー・バウアーのほうがシーヴァーに近いかもしれない。
ただ、ダルビッシュとシーヴァーは、頭のよさや修練の仕方が似ているような気がする。投手というのは頭がよくなくては務まらない職業だが、このふたりは打者との駆け引きのみならず、自身の長所の発達や短所の克服に、頭をよく使ってきたと思う。投球術の改修を厭わず、球種の取捨やイメージの変貌も恐れない。
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photograph by ©Getty Images