いつだって脚光を浴びるのは上る方ばかりだ。だが、よく考えてみてほしい。上るのが大変なら下るのだって同じように大変だろう。さあ、今こそ天下の険を下った男たちにスポットライトを――。
「人が走るところじゃねぇ」
「ビビったら足も気持ちも折れる」
箱根6区を駆けた選手たちの言葉だ。
山下りの6区は、山上りの5区の裏返し。急勾配を駆け下りる特殊区間であり、勝負を左右する重要区間とも言われている。
ただ、5区の強者は「山の神」と讃えられるが、6区を下る最速の選手には何の称号も与えられない。レースを走り切った見返りに、血マメと水膨れ、極度の筋肉痛が出迎えてくれる。
現在の区間記録は、2020年大会で東海大学4年生だった館澤亨次(DeNA)が出したもの。1年時に5区の山上りで「全然前に進まない。本当にきつくてしょうがない」という苦しみを知った館澤だが、6区ではまた別の地獄を味わったという。
「終盤の函嶺洞門の1km手前ぐらいで足の裏がめちゃくちゃ熱くなったんです。これは血だらけになっているか、何か起きているだろうと。終わった後に見たら、踵にすごく大きな血マメができていました」
おそらく靴下についていた滑り止めがこすれてできたものだという。
「厚底シューズのおかげで血マメは破けずに済んだ。じゃなきゃ、過去に6区を走った人たちみたいに足が血だらけになっていたと思います」
復路のスタート区間となる6区は、芦ノ湖駐車場を出発して小田原中継所までの20.8km。出だしは5区の山上りと変わらないほどの急坂を約4.5km上り、標高874mの最高点へ。そこから箱根湯本駅まで転げ落ちるように坂を下っていく。そして、最後の3kmは緩やかな平地区間が標高35mの小田原中継所まで続く。
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photograph by Kenta Yoshizawa