北京の喧騒と4回転ジャンプ時代到来の興奮はわずか数日で泡と消えた。オリンピックの舞台に、プーチンのロシアが嵐を呼び寄せ、そして、その嵐もスポーツの力が決して及ばない「プーチンの戦争」に跡形もなくかき消された。2022年の冬季オリンピックの結末に、こんな悲劇が待っていたことをいったい誰が予想できただろうか。
北京大会でのフィギュアスケート女子の展望は’18年の平昌大会が終わった時点から、もうすでに構図が出来上がっていた。いわく、トゥトベリーゼ一門が北京の表彰台を席巻する。そして平昌金メダリストのアリーナ・ザギトワも連覇どころか、出場さえも苦しいかもしれない―と。なぜなら、エテリ・トゥトベリーゼコーチ率いるモスクワの名門クラブ「サンボ70」には、綺羅星のごとくジュニアの逸材が集まり、平昌大会の翌シーズンからシニアデビューすることが決まっていたからだ。
あまりの強さに「まるでロシア大会ではないか」。
平昌大会から2週間後に開かれた2018世界ジュニア選手権。4回転ジャンプの申し子、アレクサンドラ・トゥルソワがトウループとサルコウの2本を決めて優勝を果たした。平昌大会なら4位に相当する驚愕の点数。平昌銀メダリストのエフゲニア・メドベデワをして、「私たちのクラブにはシニアの選手よりも素晴らしいジャンプを跳ぶジュニアの選手がいる」と言わしめるほどだった。
トゥルソワと同い歳のアンナ・シェルバコワは相次ぐ骨折に見舞われて、伸び盛りの時期に試合に出られない日々が続いたが、実力は折り紙付き。浅田真央に憧れて、高難度のジャンプと華麗な舞を磨き、大会に出場すればトゥルソワさえも破った。完成された演技はあまり選手を褒めないトゥトベリーゼをもうならせた。
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