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「自分で野球を難しくしていた」松坂大輔が追い求めた“光る球”と20歳の苦悩とは?〜連載「怪物秘録」第30回〜

2023/08/20
2年連続最多勝タイトルを獲得して迎えた3年目。過去最多の240イニング以上を投げ、沢村賞を獲得するも15勝15敗で貯金を作れず、満足とは遠いシーズンとなってしまった。

 新田小次郎は、野球マンガ『光の小次郎』(水島新司)の主人公である。20歳の頃の松坂大輔は、マンガの中で小次郎が投げた低めのボールゾーンから高めのボールゾーンへ伸びてくるストレート、“光る球”を投げたいと、本気で取り組んでいた。

◆◆◆

 確かに、けっこう本気でした(笑)。若い頃の僕は野球マンガからヒントを得ることがよくあったんです。あのときにイメージしていたのはキャッチャーミットの向きでした。ミットの捕球面が下を向くような、ホップしてくるストレート。それが小次郎の“光る球”です。小次郎はその球をオールスターで投げたんですけど、自分でもどうやって投げたのか、わからなかった。彼は何とかその球をもう一度、投げたくて“光る球”の感触を探し求めます。

 結果、小次郎のフォームはバラバラになってしまいました。そのままでも試合に勝てるだけの球を持っていたのに、あえて理想を追う……僕も20歳の頃、自分で野球を難しくしてしまったところはあったかもしれません。そんなに何かを大きく変えなくてもそれなりに勝てたと思うんです。でも自分の頭の中にやりたいことがたくさん浮かんできて、こういうフォームを試してみたい、こういうフォームで投げたらこういうボールが投げられるんじゃないかとイメージするのがすごく楽しかった。同時にやればやるほど、ひとつのものを作り上げていく大変さを感じていました。

 僕が思い描いていたのはいかにして(身体の)内にパワーを溜めて、溜めたパワーを効率よく指先に伝えるか。そのためにどういう動きを取り入れたほうがいいのか、どういう部分を鍛えたほうがいいのか……もちろん正解なんて、わかりません。でも僕はそういうことに本気になれる自分が好きでした。もし今のトレーニングや身体に対する知識があったら違う方法はあったかもしれません。新しいものと昔からいいと言われていたものを組み合わせて、僕なりのやり方を探すことができれば、もう少し正解に近づけたのかな、とは思います。

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photograph by Kiichi Matsumoto

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