五輪3大会連続出場の消滅。まさかの“パリ落選”には、卓球王国・中国でも衝撃が広がった。あれから半年――。日本人未到の領域へ挑む現在の率直な想いに迫る。(原題:[大魔王の逆襲]伊藤美誠「私は中国選手に勝ちたいんです」)
【この記事作成のための伊藤選手へのインタビュー動画をNumberPREMIERで公開。リラックスした表情や言葉のニュアンスが伝わる貴重な映像。記事と併せてお楽しみください】
【この記事作成のための伊藤選手へのインタビュー動画をNumberPREMIERで公開。リラックスした表情や言葉のニュアンスが伝わる貴重な映像。記事と併せてお楽しみください】
静岡県・磐田卓球場ラリーナ。
卓球台が12台並ぶ広々とした空間の中、カーテンを閉め切り、集中して練習が行われていた。時々、強風が木々を揺らす音が聞こえてくる。伊藤美誠は今、大阪と磐田を練習拠点にしている。
「磐田は、風が強いんですよねぇ」
何気なくそういった表情は、2022年の夏の頃とは異なり、柔和で優しく、とてもリラックスしているように見えた。
「パリ」の目標に思考も体も追いついていなかった。
「すぐにでも練習をしたい。中国人選手に勝って個人で優勝したい。五輪が終わっても毎日、卓球のことを考えています」
東京五輪で金銀銅の3つのメダルを獲った後、伊藤は嬉々とした表情でそう語り、次に向けてすでに気持ちが動いていた。
ところが、それからわずか7カ月後、現役続行か引退かを決断するところまで追い込まれた。2022年1月、全日本選手権で優勝したが、3月の第1回のパリ五輪選考会は準々決勝で長崎美柚に敗れた。そのままシンガポールスマッシュに出場するもベスト16で敗退。その試合を見た母親から「このままダラダラしていても中途半端になるだけ。やめるか、パリを目指すのか、どっちかに決めなさい」と最後通告が出された。この時、伊藤は「やる」と決めたのだが……。
「自分でもダラダラやるのは嫌でしたし、ここでやめられないと思ったので、やろうと決めたんですけど……。でも、わざと自分をそう奮い立たせている感じで、パリという目標に対して思考も体も追いついていない感じだったんです」
特製トートバッグ付き!
「雑誌プラン」にご加入いただくと、全員にNumber特製トートバッグをプレゼント。
※送付はお申し込み翌月の中旬を予定しています
photograph by Kiichi Matsumoto