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「晩成型でウィークポイントが多い馬」タスティエーラはなぜ勝てたのか?[第90回日本ダービーの深層を探る]

2023/06/01
先団追走から直線で一足早く抜け出した4番人気タスティエーラが追いすがる1番人気の皐月賞馬ソールオリエンスをクビ差制した。なお2番人気スキルヴィングが完走後に急性心不全で息を引き取り、波乱に満ちた一戦となった
スタート直後の落馬というカオスの中、栄冠を掴んだのは南半球の名手を鞍上に迎えた東の職人集団だった。各々の思惑が行き交った90回目の日本競馬の祭典。そこには確かに、時代が変わる萌芽があった――。

 コロナ禍を越え、4年ぶりに戻ってきた7万2000人近い大歓声の下で行われた節目の第90回日本ダービー。ただ、華々しさと裏腹に、実戦は予想もできないアクシデントから始まってしまった。

 逃げるかも、と見られていたドゥラエレーデが、スタート直後に坂井瑠星騎手を振り落としてしまったのが発端。それがレース展開に大きく影響することになった。機敏にハナを奪ったのが田辺裕信騎手で、17番人気のパクスオトマニカを思い切りよく行かせたのが波乱の展開を呼んだ。低評価の馬だったこともあって、誰も追いかけてこない形の大逃げ。しかも前半1000mが1分0秒4というスローで、2番手のホウオウビスケッツ、3番手のシーズンリッチもそのポジションで満足してしまったことが、全体の流れを決めた。

 どうせ逃げている馬は止まる。だとしたら自分で鈴をつけに行って新たな目標とされるのはバカバカしい。という、よくある実戦心理が働きそうな中、勇気を持って向こう正面の中ほどから動いて行ったのがハーツコンチェルトの松山弘平騎手で、結果的にこれが3着(6番人気)という好成績を生んだ。前走の皐月賞まで騎乗していたタスティエーラを外国人騎手に奪われた悔しさを、自らのベストなプレーで少しだけ晴らした。

「(松山の動きに)乗ろうかと迷ったのに、結局見送ってしまった」と、珍しく自らの騎乗に後悔の弁を述べたのがファントムシーフの武豊騎手。実戦でこの馬に騎乗するのはこのダービーが初めてで、「想像していた以上に馬体に緩さがあった」とも漏らした。そして、その感触が最初で最後のチャンスをスルーする原因になったらしい。

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photograph by Kiichi Matsumoto
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