物語には筋書きがある。「シンデレラストーリー」と評される湯浅京己も、自らの手でその筋立てを描き、歩んできた。
1年前に今の自分の立場を想像できていた? そう問われた23歳は、切れ長の目に強気の光を宿し、こう口にした。
「想像できたか、と言われるとできていないですけど……。でもジャパンに入るということは、去年のキャンプの時点から心に決めていたし、身近な人にはずっと言い続けていました。あの時点で自分には何の実績もなかったですけどね。1年後にWBCがあるのは分かっていたし、そこに向かって頑張るんだって。“夢”ではなく、一つの“目標”であり“通過点”として、自分の中で持ち続けていました」
2022年シーズンの開幕前、湯浅はまだ海の物とも山の物ともつかない存在だった。独立リーグ・富山GRNサンダーバーズから'19年にドラフト6位で阪神に入団して4年目。この間、公式戦の登板は3試合だけ。腰椎の疲労骨折や右足の肉離れなど、度重なる故障との戦いが続いていた。
いくら20代前半と言っても、背水の状況に少しくらい悲愴感が漂ってもおかしくはない。ところが若き右腕は、自分の可能性を疑わなかった。初めて一軍で迎えたシーズン開幕を前に、湯浅はスポーツメーカーのグラブ担当者にこう伝えたという。
「オールスター用のグラブを作っておいてください」
その筋書きは、鮮やかな色彩を加えて膨らんでいく。4月6日のDeNA戦でプロ初ホールドを記録すると、同13日の中日戦から、17試合連続で無失点に抑えるなどセットアッパーの地位を確立。特注グラブを携えて、堂々と7月のオールスターゲームに出場を果たした。
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