その言動が日々話題を呼ぶ65歳の指揮官は、多くの著書を上梓する球界屈指の文筆家でもある。虎党の文学者が3冊の“岡田本”を分析すると、名将たる思考の数々が浮かび上がってきた。
今季の阪神タイガースにおいて、もっともマスコミ注目度が高い人物は岡田彰布監督だろう。選手の活躍は試合ごとに変動するが、岡田監督の采配・発言は連日ニュースで取り上げられる。彼の思考は報道の価値ありと認識されているのだ。
たしかに岡田監督の采配・発言には、これまでの定説を覆すようなものが多い。有名な例を挙げると、打者に「ゲッツー打ってこい!」と指示を出したり、クローザーの条件は「『ビビリ』であること」と説いたり、やや逆説めいた表現を端的に用いるため、受け取る側は身を乗り出してしまう。
そのためか、岡田監督は著書の多い野球人でもある。これまで単著7作、共著2作。これは現在の12球団の監督のなかでダントツである。もちろん最高齢監督だから当然かもしれないが、同年代(1歳下)の巨人・原辰徳監督が単著4作だと考えると、やはりその多作ぶりは際立っている。話し言葉になると、極端な主語省略や指示語多用に代表される、いわゆる「どん語」のファニーな側面がクローズアップされがちな岡田監督だが、その思考を味わうには「どん語」に惑わされない彼の著書、活字の岡田彰布を読み解くのが最適なのである。
なかでも、おすすめは2010年7月に発行された『動くが負け─0勝144敗から考える監督論』。まずタイトルからして岡田監督らしい逆説的な含みが示唆されており、目次にも「不動の戦略」「勝利の秘訣はマイナス思考の采配」といった、あえて真理に背くかのような言葉が並んでいる。
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photograph by SANKEI SHIMBUN