博多の人・王貞治BACK NUMBER
「もう、辞めて東京に帰ってこい」悪夢の屈辱…悩める王貞治はなぜダイエーに踏みとどまったのか?「王さん辞めさせるなら、君が辞めなさい!」
text by

喜瀬雅則Masanori Kise
photograph byKazuaki Nishiyama
posted2026/07/10 11:09
勝利への意思がなかなか伝わらず低迷する時期、王の悩みは深かった。周囲からは辞任を勧める声もあったというが……
「僕は、普通の人間なら、そうしてるんじゃないかと思うんです」
そう前置きした上で、城島健司は、当時の王の心中をこう慮った。
「ただ、自分が何のために福岡に来たのか、このチームをどうしたいんだ、という監督としての意思みたいなものが、ホントに強かったと思うんですよ。今の王貞治を見ていると、途中で逃げ出したりすることを、自分が許せない人だったんじゃないかな。
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王貞治とずっと三十うん年、こうやって付き合わせてもらって、そういうところから一番逃げなかった生き方だったと思うんです。だから868本もホームランを打てたんだし、ジャイアンツで国民的スターになったし、そういう生き方をしてきたんじゃないかな。王さんの中では、自分の持ち場を契約期間内に離れる、みたいなのは毛頭なかったんじゃないですか」
城島の「取材活動」
城島は今、王貞治の「野球人生」を記録として残すため、自らの人脈も駆使して、王に関わってきた野球人や親しい関係者たちを訪ね歩いている。生前の長嶋茂雄にも城島自ら話を聞いたといい、そのインタビューを映像に収め、書籍としても残すことを検討するなど、チーム作りのトップという重責を担いながら、その“取材活動”にも精を出している。
「王さんの周りの人、東京にいる人たち、巨人時代に一緒にやられたコーチや選手に話を聞こうと思ったんです。その当時、東京の人たち、親しい人たちが『もう、ワンちゃん、帰っておいで』って、やっぱり皆さん、おっしゃったそうなんです」
そんな屈辱を浴びせられる必要はない。もう、いいじゃないか。
その慰めの言葉にも王は首を振り、いつも、必ず、こう言って会話を締めたのだという。
「よし、また福岡に行ってくる」
城島は、敬愛する師の思いを、こう解釈している。
「ホントは帰りたいけど、帰らないっていう人だったら、帰っている、辞めていると思うんです。でも、王さんには『辞める』という考えがないんだと思うんです」
王は、逃げなかったのだ。
〈つづく〉

