フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
「時間ありますか?」坂本花織がお菓子を配って…海外記者も「なぜ引退するのか?続ける気はない?」世界選手権で現役引退、中継には映らなかった舞台裏
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田村明子Akiko Tamura
photograph byAFLO
posted2026/04/01 17:05
世界選手権最後の演技を終え、ガッツポーズを作った坂本花織
誰もが確信した、坂本の優勝
2日後のフリーでは、緊張しながらも、すべてふっきれたかのようなすっきりとした表情で氷の上に立った。マリーフランス・ドゥブリュイユ振付「愛の讃歌」で、2アクセル、3フリップ、3ルッツ+2トウループと、ジャンプを着実にきめていった。ミラノでは入らなかった後半の3フリップ+3トウループもきめ、最後のスピンではもう音楽がほとんど聞こえないほどの歓声だった。
最後までノーミスで滑り切って、涙ぐむ坂本の顔が会場の大スクリーンに映し出された。優勝。坂本の優勝だ、と誰もが確信しただろう。
パーソナルベストスコア、158.97のスコアを見た瞬間、キスアンドクライの椅子から立ち上がって走り出しそうになった坂本。演技構成点3種目すべてで10点満点を出したジャッジもいた。4回目の世界タイトルは、1996年から2003年までの間に5度優勝したミシェル・クワン以来の快挙である。
海外記者は思わず「もう少し続ける気はないのか?」
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優勝会見で、坂本はこう思いを口にした。
「オリンピックで思い描いていた結果にならなかったことが、本当に一番……後にも先にもこれが一番悔しいという経験をして、それがシーズンの後半の方に来てしまったので、これは世界選手権で絶対、金メダル。(SP1位の)スモールメダル、(総合の)本チャンメダルとって帰らないと自分が満足できないと思って、それをしっかり果たすことができたので、まあ終わり良ければすべてよしです」
オリンピックで一度切れた糸を再び結んで紡いだのは、本人が人前で言葉にしているよりもずっと大変だったのではないかと思う。
だが「今となっては、本当にこの大会に出て良かったな、という感じで思っています」と口にした坂本の晴れやかな顔を見て、彼女を囲んでいた記者たちの間にも和んだ空気が流れた。こうして接した全ての人を幸せにするパワーを持っているのが、坂本花織である。
会見で「これほどの演技ができるのに、なぜ引退するのか。もう少し続ける気はないのか」という質問は海外記者からも出たし、振付師のブノワ・リショーも、「続けない?」と聞いてきた。だが坂本は「大丈夫でーす」と笑顔で断ったのだという。
今後はコーチになって小さな子供たちのグループから担当する予定だ。彼女の指導を受けることができる子供たちは、とても幸せだと思う。



