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中日二軍で壮絶な練習…寮で「死亡説」が流れた“ある選手”「それほど追い詰められているように…」野村克也から絶賛されるまで「前原1人にやられた」
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岡野誠Makoto Okano
photograph byNumberWeb
posted2026/03/28 11:02
中日で活躍した元プロ野球選手、前原博之58歳
「今年は徹底的に鍛え上げるぞ。二度とファームに落とされないような力を付けない限り、一軍には推薦しない」
鬼軍曹は、試合が終わると毎日2時間の居残り特打を命じた。他の選手が球場を後にしても、前原は一人で黙々と打ち込んだ。壮絶な練習量をこなす日々が続くと、同僚は不安げな視線を注いだ。
「二軍の試合で広島に遠征する際、新幹線のホームで『ここで飛び込んだら楽になるだろうな』と言ったら、周りの選手が手を横に広げて『早まっちゃあかんぞ!』と叫んでました。冗談で言ったのに、本気だと思われてしまった」
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ファームの本拠地・阿久比球場(愛知県)での3連戦の初戦、デーゲームを終えると、いつものように前原のバッティング練習が始まった。陽が沈む頃、撤収の準備に入ると、福田監督の指導が始まった。真っ暗な球場で、わずかな明かりの灯るベンチの中、背番号56は泥だらけのユニフォームのまま、耳を傾けた。気付くと、夜10時を回っていた。
「その日、ほとんどの選手はドラゴンズの寮に泊まっていました。僕も着替えを置いていたのですが、時間がないから、そのまま自分の家に帰ったんです。翌朝、『着替えがまだあるぞ! 前原やばいぞ!』と寮が大騒ぎになったらしいです」
携帯電話のない時代、早朝の『昇竜館』で前原の“死亡説”が流れた。
「それくらい追い詰められているように見えたんでしょうね」
「手首がおかしいです…」落合博満の特訓
過酷な練習は、成長を促した。前原はウエスタン・リーグ3位の打点、5位の本塁打を記録。監督が星野仙一から高木守道に替わった秋季キャンプでは、主砲の落合博満に猛特訓を課せられた。
「カーブマシンに正対し、来た球をずっと打ち続ける練習をしました。バットに当てられないと、自分の体に直撃する。ずっとスイングしていると、練習が終わっても、手からバットが離れないんですよ。一本ずつ指をゆっくり剥がさないといけなかった」
落合は「これで、ようやく練習したと言えるな」と呟いた後、「明日もな」と事もなげに告げた。前原は心の中で「えっ……」と絶句した。キャンプ中、落合道場は毎日1時間半、2000球にも及んだ。

