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「良い嫁さんだな…」元中日の人気選手が“48歳で異例決断”…怒鳴られた修行生活「妻や子供の顔が浮かんで…」プロ野球生活15年の男、“その後の人生”
posted2026/03/30 11:02
中日で活躍した元プロ野球選手、前原博之は58歳の今、岐阜市の新聞販売店のオーナーとして奮闘している
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岡野誠Makoto Okano
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NumberWeb
前原博之は2年間の球団職員生活に自らピリオドを打ち、48歳で一念発起。見ず知らずの新しい業界への挑戦を決意する。それが、新聞販売店だった。
「昭和商事でサラリーマンをしている頃にも、中日新聞の部長さんに誘われたんですよ。ただ、その時は『北陸なら空きがある』と言われた。場所は愛知や岐阜を考えていたので、立ち消えました。当時は新聞の部数も多かったし、販売店主催の野球教室に行った帰り、自宅が併設された店に立ち寄ると、豪勢な家が多かった。そのイメージが残っていたし、ちょうど岐阜市で店の跡継ぎを探している人と出会ったんです」
「怒鳴られっぱなし」48歳の修行生活
38歳で再婚し、育ち盛りの子供を3人抱えるため、前原は定年のない仕事を選択した。夫の急な決断に、妻はどんな反応を示したのか。
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「新聞販売店を始めると決める時、何も相談しなかったんですよ。それでも、彼女は何も言わず、付いてきてくれた。いつも三歩後ろを歩いてくれるような人です。友人などに紹介すると『良い嫁さんだな』と必ず褒められる。『お前、よく見つけたな』って」
48歳での挑戦は前途多難だった。前原夫妻は半年間の研修に出る。夫は名古屋、妻は岐阜の新聞販売店に通った。
「本当にしんどかった。店の近くのアパートに1人で単身赴任したのですが、食べても食べても体重が減っていきました。普通は店を持つまで、数年かけて何店舗も渡り歩いて、勉強する。でも、僕は大幅に短縮してもらって、6カ月で全ての仕事を覚えないといけない。毎日、怒鳴られっぱなしでした」
3歳年上の社長は「おまえ、何やってんだ! まだ分からないのか!」と前原を度々叱責した。「ちょっとそこで見とけ!」と大声を張り上げ、部屋の隅に1時間近く立たせる時もあった。
「何度もキレそうになりました。でも、喉元まで言葉が出かかると、妻や子供の顔が脳裏に浮かぶ。『……我慢しなきゃいけない』とグッと堪えました」
それでも…「星野さんが誰よりも怖いです」
地獄のような職場でも、傍らで見守るベテランの60代女性は優しかった。日に日に痩せ細る48歳が吊し上げられる度に、小声で「次はあれだよ」と教えてくれた。

