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「お前は兄貴に絶対に勝てない」と…ノーマルヒルでは「まさかの失速」失意の絶対王者が破った “プレブツ家の呪い”「メダルは結果に過ぎない。ただ…」
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雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byTsutomu Kishimoto/JMPA
posted2026/02/18 11:18
スロベニア男子初となるジャンプ個人での金メダルを獲得したドメン・プレブツ。絶対的な優勝候補として挑んだが、栄冠までには多くの困難があった
ドメンも中村を含めた日本選手についてこんなふうに話していたことがある。
「みんなナイスガイで、ライバルというよりはいい友達。ヨーロッパで転戦するのは日本選手にとってはタフなこともあると思うけど、常にうまくマネジメントしているのを評価しています」
その日本勢の一角、二階堂が大きな壁として立ちはだかった五輪ラージヒルの2本目。混合団体と違い、ドメンは自分でも驚くほどプレッシャーを感じていなかったという。
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逆転への高いハードルを理解しつつも、頭にあったのはひとつだけだった。
「やるべきことをやって、飛べるだけ飛ぶ」
そう心を決めてプレダッツォの空に描いた飛行曲線はどんどん伸びていき、ヒルサイズをわずかに越える141.5mで着地した。この日の最長不倒だった。
特大のジャンプで続く二階堂にプレッシャーをかけると、日本の24歳は最後に失速した。ドメン自身が「まるで映画を観ているようだった」と振り返るドラマチックな逆転劇だった。
「この金メダルで兄に打ち勝つことができた」
スロベニア男子にとっての悲願の個人金メダルはこうして成就した。
「体は熱くなっても、心は冷静だった。プレッシャーは思ったよりも軽かった。そして、こうして人々の予想を覆せたことも満足。この金メダルで兄に打ち勝つことができたので」
兄ペテルにもできなかった個人の金メダル獲得は、すべての呪縛からドメンを解き放つ大きなマイルストーンになった。
翌日の女子ラージヒルでは、またしてもニカは金メダルは獲れなかった。
2人で金総ナメかという事前の予想もあった中、それだけにドメンが勝ち得たラージヒル金メダルのかけがえのなさが際立つ結果になった。
ドメンは達観したように言う。
「メダルは単なる結果に過ぎない。自分の記憶に残るのは、ジャンプそのものと、その瞬間の感情。それを覚えておきたい。年老いたときにも心の中に留めておいて、この経験を深い感動とともに思い返したいんだ」
そんな考え方もまた、これからのプレブツ家の教えとして引き継がれていくのかもしれない。

