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「彼女が代表するのは“アイリーン・グー株式会社”だけだ」年収は約35億円…米国生まれ→中国代表の22歳はナゼ論争に? 米メディア編集長の見解は…
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一野洋Hiroshi Ichino
photograph byGetty Images
posted2026/02/17 17:02
ミラノ五輪でも活躍を見せるアメリカ生まれの中国選手、アイリーン・グー(谷愛凌)。彼女の決断が議論を生むワケとは…?
では、なぜグーの選択は議論を呼ぶのだろうか?
例えばアメリカが圧倒的な優位性を持っているわけではないサッカーでは、アメリカ生まれの有望選手が他国代表を選んだ際に議論が起きたこともある。
ニュージャージー州生まれのジュゼッペ・ロッシは、アメリカ代表ではなくイタリア代表を選択した。この決断は当時、米国内で議論を呼び、生まれた国アメリカではなく、ルーツであるイタリアを選んだことで批判を浴びた。
グーの国籍変更が議論になる「特異性」
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同様にフリースタイルスキーという種目においては、アメリカは強豪国の一角である一方で、野球やバスケットボールほどの絶対性は有していない。しかもグーの場合はさらに特殊だ。ベンソン編集長はその核心をこう語る。
「国籍選択で自身のルーツを活かすことをファンが“クール”と受け止められる理由の一つは、多くの場合、そうした選手たちが実際にはアメリカ代表に選ばれない選手たちだからです。だからこそ、グーの場合は大きな議論になるのです。彼女はアメリカでも代表選考に絡んでくるだけでなく、メダルが確実視されるようなトップクラスの選手ですから」
この違いは決定的だ。アメリカ代表でも金メダル候補になれる選手が、あえて別の国を選ぶ――そのとき、物語は単なるルーツの話ではなくなる。
しかも、その「別の国」が中国であることがさらに議論を複雑にする。米中関係が緊張をはらむ中で、彼女の存在はしばしばスポーツを超えた象徴として語られてしまうのだ。
実際、米国版ヤフーに掲載されたコラムでは、彼女を「中国の旗を背負っていても、実際に代表しているのは“アイリーン・グー株式会社”だけだ」と表現し、政治でも国家でもなく、個人ブランドとして振る舞う存在だと指摘する声もあった。トップアスリートでありながら、巨大な商業価値を持つ“企業”のような存在――そんな冷めた見方があるのも事実だ。
幸運にも今回の五輪で彼女の国籍問題が大会全体を覆うほどの論争になっているわけではない。上述のように現状、アメリカには別の主役たちがいるからだ。
五輪の物語は、常に複数ある。その中で、いまはグーの物語は「最大の論争」ではなく「静かに続く問い」として存在している。だが、今後もグーは金メダル候補として、フリースタイルスキーのハーフパイプにも出場する。
そこで頂点に立った時、果たしてアメリカ国内はどんな反応を見せるのだろうか。

