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甲子園の風BACK NUMBER
「9回無死から2ランスクイズ」甲子園史に残る逆転サヨナラ許した近江高“悲劇の捕手”のいま「時を戻してやり直せるなら?」返ってきた意外な答え
text by

佐藤春佳Haruka Sato
photograph byHideki Sugiyama
posted2025/12/30 11:09
悲劇のサヨナラ負けに涙を流す近江高・有馬
その直前。9回の近江の攻撃で、先頭打者の有馬はライト前ヒットを打ち出塁していた。1死一、二塁となり、8番の林が試みたバントで二塁走者の有馬はアウトになり、林は塁上に残っていた。結局、無得点で攻撃が終わり、最終回のマウンドに向かうイニング間はお互い準備に慌ただしく、バッテリー間で会話を交わすことができなかったのだという。
「そこで声をかけられずマウンドに向かっていたということもあるんです。だからこそ1つ早いタイミングで……まあ、タラレバの話ですけどね。でも、野球の試合には必ず流れがある。だからこそ、そういった小さいことで変えられたのかな、という風に今では思っています」
「すごくいい思い出ではあります」
あの地鳴りのような大歓声、非情に鳴り響いた試合終了のサイレン、涙を流し唇を噛み締めて聞いた金足農業の校歌……。全ては遠い記憶の中だ。ただ、身をもって知った勝負の怖さは、有馬の糧となり司令塔としての成長を支えた。3年夏に再び滋賀県大会を勝ち抜き帰還した甲子園のスタンドからは、温かい拍手が降り注いだ。
「当時は、本当に悔しかったしすぐにいい方向に気持ちを切り替えることはできなかったです。でも、なんと表現したらいいか分からないですけど、すごくいい思い出ではあります。負けたこともそうですし、翌年、もう一度帰ってきた甲子園であんな雰囲気で迎えていただいたことも。年数を重ねて今は、あの場所で本当にいい経験をさせていただけたんだな、と思っています」〈つづく〉



