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甲子園の風BACK NUMBER
「9回無死から2ランスクイズ」甲子園史に残る逆転サヨナラ許した近江高“悲劇の捕手”のいま「時を戻してやり直せるなら?」返ってきた意外な答え
text by

佐藤春佳Haruka Sato
photograph byHideki Sugiyama
posted2025/12/30 11:09
悲劇のサヨナラ負けに涙を流す近江高・有馬
夏の甲子園…悲劇の幕切れ
有馬諒。高校野球ファンにとっては“あの場面”が思い浮かぶことだろう。近江高2年時に出場した2018年夏の甲子園、第100回記念大会。準々決勝での、悲劇の幕切れだ。
「そうですね。今この年になっても、そういうお話をしていただけるのは、自分にとっても大きな財産になっているんだな、とあらためて思います。あのプレーを鮮明に覚えているかと言われると、そんなこともないんですけどね。でも、今でも甲子園の名場面を振り返る映像で流れてきたりしますから……それは光栄なことだと思います」
2年生ながら近江高の正捕手をつとめていた有馬は、同学年で「背番号18」の左腕・林優樹(現・楽天)との“2年生バッテリー”の活躍で勝ち上がって行った。準々決勝で迎えた相手は秋田代表の金足農業。エースの吉田輝星(現・オリックス)を旗印に巻き起こしていた「カナノウフィーバー」が、2人に襲いかかった。
「カナノウ」フィーバーに呑み込まれて…
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2―1と近江のリードで迎えた9回裏の守備。粘る金足農業は連打と四球で無死満塁とした。甲子園のスタンド全体から拍手が沸き起こり「カナノウ」への熱い声援が降り注いだ。そこまで9打席無安打だった金足農業の9番打者・斎藤璃玖が三塁手の前にバントを転がす。三塁走者が生還し2−2同点。三塁手が一塁へ送球した隙をつき、二塁走者までもが三塁ベースを蹴ってホームにヘッドスライディング。
「9回無死から2ランスクイズ」での逆転負けに、有馬はグラウンドに突っ伏したまま動けなかった。金足農業の歓喜の輪が広がるその傍で動かぬ“石”となったその姿は、ドラマチックな甲子園の悲喜劇を表しているかのようだった。


