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「井上尚弥が3階級上のボクサーの腕を折った」伝説のウラ側とは…「井上尚弥とのスパーリング、いける?」“折られたボクサー”渡邉卓也36歳を直撃
posted2025/12/27 11:35
数々の伝説的なエピソードを持つ“モンスター”井上尚弥。12月27日にはサウジアラビアでアラン・ピカソとの防衛戦を行う
text by

森合正範Masanori Moriai
photograph by
Hiroaki Finito Yamaguchi
本人の口から語られてこなかった“ある伝説”
賑やかな新しいジムで二人ともぽつんとしていた。11月上旬、元WBO世界フライ級王者の木村翔が埼玉・熊谷にプロ加盟ジムを開設し、私はお披露目パーティーに招かれた。100人以上集まったものの、主役以外、知った顔が一人もいない。周囲を見渡すと、もう一人、居場所のなさそうな人がいた。木村と同世代のプロボクサー、渡邉卓也(DANGAN GYM)だった。国内で現役最多の58戦を誇る元WBOアジアパシフィック王者。タイ、韓国、香港、中国、台湾、メキシコと海外での試合経験も豊富なベテランに話を聞きたいと思い、声を掛けた。
しばらく現状などの会話を交わし、後日、あらためて取材をする約束をした。別れ際、対戦者の視点で井上尚弥の強さを綴った、拙著『怪物に出会った日』の話に及んだ。
「俺も結構、井上選手とスパーリングをやっていたんですけどね。1カ月半くらいずっとやっていた時期もあるんですよ。あまり知られていないかもしれませんが……」
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渡邉がそう漏らした。
知らないはずがない。井上がスーパーフライ級時代、3階級も上となるフェザー級の渡邉の腕を折った――。井上尚弥の数ある伝説の中でも指折りのエピソードだった。
だが、その話を振っていいものか、わからない。これまで本人の口から一切語られることがなかったからだ。
「今度、取材のとき、井上選手とのスパーリングの話を聞いてもいいですか?」
私がそう確認すると、渡邉は間髪入れずに言った。
「もちろん、全然話しますよ」
そのとき私はまだ、井上とのスパーリング後に、渡邉にも知られざる物語があったことを想像もしていなかった。
再会することを約束し、その日は別れた。

