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36歳ボクサー“今もスーパーでアルバイト”「羨ましいと思うことはあります。でも…」“現役最多58戦”渡邉卓也の告白「自分に負けるのだけは嫌なんで」
posted2025/12/27 11:42
国内の現役プロボクサーでは最多となる58戦のキャリアを持つ渡邉卓也。プロ19年目の現在も、情熱はまったく衰えていない
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森合正範Masanori Moriai
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「ジョニゴンの話があるけど、どうする?」
2022年の秋のことだった。
ジムに向かっているとき、渡邉卓也の携帯が鳴った。現在の所属ジム会長、瀬端幸男からだった。
「ジョニゴンの話があるけど、どうする?」
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渡邉は「ジョニゴン」がよく分からず、頭の中で何度も反芻した。ジョニゴン? ジョニゴン!?
「あっ、ジョニゴン! 試合するんですか、ジョニゴンと。やります、やります」
一気に興奮してくるのがわかった。「ジョニゴン」ことジョニー・ゴンサレスは、メキシコ出身の元世界2階級王者。41歳と峠は越えたものの、独特のゆったりとしたリズムで相手を倒す。キャリアの中で一番のビッグネームだった。
韓国・仁川での試合。2日前の記者会見で向かい合うと、独特のオーラが漂ってきた。握手をすると、拳がいかつい。
これ、絶対に強いヤツじゃん……。
いかにもパンチが強そうな拳だった。周囲もみんな「あれ、パンチ強いぞ、年齢いってもパンチ力は衰えないぞ」とあおってくる。
リングに上がるとき、極度の緊張を覚えた。しかし、ゴングが鳴ると、堅いガードから左を上下に打ち分け、右ストレートを顔面に打ち込んだ。明白な判定勝ちで渡邉の手が上がった。嬉しさよりも安堵感が上回る。勝てば次につながり、負ければここで終わってしまうかもしれない。この何年かはずっとそんな危機感と向き合っている。
メキシコのファンにも評価されたローマン戦
2024年春にはメキシコへ飛んだ。相手は戦績80戦超で強打のミゲル・ローマン。成田から米ヒューストンまで十数時間、トランジットが6時間あり、再び飛行機に乗り2時間でエルパソへ。そこから車で国境を渡り、試合会場のメキシコ・シウダーファレスに入った。
インターネットで「シウダーファレス」を検索したら「危険な都市」「治安が悪い」「スラム街」と悪いことしか出てこなかった。

