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「井上尚弥が3階級上のボクサーの腕を折った」伝説のウラ側とは…「井上尚弥とのスパーリング、いける?」“折られたボクサー”渡邉卓也36歳を直撃 

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森合正範

森合正範Masanori Moriai

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photograph byHiroaki Finito Yamaguchi

posted2025/12/27 11:35

「井上尚弥が3階級上のボクサーの腕を折った」伝説のウラ側とは…「井上尚弥とのスパーリング、いける?」“折られたボクサー”渡邉卓也36歳を直撃<Number Web> photograph by Hiroaki Finito Yamaguchi

数々の伝説的なエピソードを持つ“モンスター”井上尚弥。12月27日にはサウジアラビアでアラン・ピカソとの防衛戦を行う

 後日、ファミリーレストランで向かい合った渡邉はプロキャリア19年とは思えないほどこわばった表情をしていた。ドリンクバーで注いだ飲み物を口につけ、ぽつりと言った。

「緊張で昨日の夜から寝られなくて……。聞かれてもあまり覚えていないこともあるし、どうしようかな、とか思っちゃって」

 生真面目で、物事をそつなくこなせるタイプではなさそうに見えた。

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「ずっとボクシングにのめりこんできたのもあるし、視野が広くないというか、なんというか、めちゃくちゃ不器用なんです」

 36歳。器用に生きられないボクサーに、俄然興味が湧いた。

「どこにでもいるクソガキ」がボクシングに魅了された日

 渡邉は東京・世田谷に生まれた。周りは高級住宅地だが、ごくごく普通の家庭で育った。

 中学のときだった。

 喧嘩が強くなりたい、ボクシングって格好いい――。

 男なら誰もが一度は思う。本人いわく「どこにでもいるような、ちょっとしたクソガキ」だった渡邉も例外ではなく、ボクシング好きの友人に後楽園ホールへ連れて行ってもらった。

 生で見るボクシングは衝撃だった。拳が交錯し、パンチがぶつかる激しい音が聞こえてくる。血を流しながら相手に向かっていく選手もいれば、膝から崩れ落ちるボクサーもいた。同じ名字の日本スーパーバンタム級チャンピオン、渡辺純一の闘う姿が輝いて見えた。

「ボクシングをやりたいんだ」

 母に告げたものの、猛反対され、色よい返事が返ってこない。

「じゃあ、中学卒業してバイトで稼いで、それでジムに行くわ」

 都立の工業高校に入学すると、スーパーマーケット「サミット」で品出しのアルバイトを始め、バイト代をジムの月謝に充て、通うことに決めた。

 ジムに入った瞬間、独特の匂いが鼻を突く。汗とグローブの革が混じったような表現しがたい香りが狭いジム内に充満している。一瞬、「うわっ……」と顔を背けたくなる。だが、同時に気分が高揚してきた。

 これがボクシングジムか、すげぇ、この匂いの中でやるのか。

【次ページ】 高校在学中にプロデビュー「トレーナーは鬼になった」

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