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「(棄権は)ないです。出るしかない」りくりゅうに“明らかな異変”…脱臼した三浦璃来を気遣った木原龍一、会見での明るい表情「記者が見た、決断の舞台裏」
posted2025/12/24 11:05
左肩を脱臼しながらSPを滑り切った三浦璃来をいたわる木原龍一
text by

松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Asami Enomoto
フィギュアスケート・ペアの三浦璃来と木原龍一は、12月上旬のグランプリファイナルでの劇的な優勝をはじめ、シーズンを順調に進んできた。
迎えた全日本選手権は、思いがけないアクシデントに襲われ、そして2人の真価を示す大会となった。
異変が起きたのは明らかだった
12月20日、ショートプログラム。演技が始まる直前の6分間練習で、それは起きた。
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スロージャンプの直前、三浦がつまずき、木原とつないでいた手が引っ張られた。三浦が苦しそうな表情に変わる。木原の表情も変わる。その後、リンクサイドに戻ると、トレーナーの処置を受けた。
異変が起きたのは明らかだった。
それでも演技の始まる時間になると、大きな歓声の中、2人が氷上に現れる。
スタート。冒頭、トリプルツイストリフトを決める。トリプルトウループも成功。2人ならではのスピードある滑りとリフトを決めていき、3回転のスロージャンプもこらえながら着氷。
ステップとスピンに、歓声が場内に響く。フィニッシュとともに、さらに大きな歓声と拍手が響き渡った。
演技の後、三浦が涙を浮かべる。木原が労わるように手を添える。場内に挨拶するとき、三浦は左腕をあげられない。
それでも得点は84.91点。国際スケート連盟非公認ながら、世界歴代最高点を上回った。
「(棄権は)ないですね。出るしかないので」
演技の後、三浦は6分間練習でのアクシデントを明かした。
「スロールッツジャンプに入る前のクロスカットで、私がつまずいてしまい、その拍子に変な角度になり左肩が外れてしまいました」
左肩を脱臼していたのだ。
「心臓が止まるかと思いました」
木原はアクシデントの瞬間を振り返り、こう語っている。だが棄権は考えなかったと言う。
「あんまりその考えが思い浮かばなかったです」(三浦)
「ないですね。出るしかないので」(木原)
そして高得点をマークしてみせた。そこには2人の経験があった。


