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「(棄権は)ないです。出るしかない」りくりゅうに“明らかな異変”…脱臼した三浦璃来を気遣った木原龍一、会見での明るい表情「記者が見た、決断の舞台裏」
text by

松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto
posted2025/12/24 11:05
左肩を脱臼しながらSPを滑り切った三浦璃来をいたわる木原龍一
「全部は手を引いていなかった」木原の気遣い
これまでも三浦はしばしば脱臼に悩まされてきた。例えば昨シーズンのグランプリファイナルでも練習中に痛めている。
たびたびあった脱臼と向き合い、対処法も学んできた。テーピングをすることで感覚が狂った経験から、しない方が安全だと判断し、今回はテーピングしなかったのもその一つだ。
精神面での対処にもいかされた。木原は言う。
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「不安はあったと思います。でもそこにフォーカスしてしまったら、去年のグランプリファイナルと一緒で修正が不可能な状態になってしまいます」
だから三浦に言葉をかけ続けた。三浦は言う。
「最初のポーズにつく直前まで、『あなたはできる。怪我をしたことにフォーカスをするな。エレメンツごとにしっかり集中して、一つ一つのことを考えなさい』と言われました」
結果、「今回やっと、気持ち的にもすごく強く挑めたと思います」。
言葉がけだけではない。木原は演技の中でもサポートしていた。
「(三浦の)手を引いているように見せて、全部は引いていなかったです」
手を引けば、三浦の肩に負担がかかることを考え、引いているように見せるにとどめたのだと言う。そんな木原に、三浦は感謝の言葉を捧げた。
「全部、調整してくれました」
「そうそう、龍一くんがいちばんだったね」
そうしたさまざまな対処と工夫、何よりも気遣いがあっての高得点だった。そして「不安だった」(三浦)という演技直前から一転、滑り終えた後は明るさを取り戻していた。
「トレーナーさんやコーチがそばにいてくれて、『大丈夫』と声をかけてくれていました」
と三浦が感謝を込めて話していると、木原は「俺は?」と口を挟む。
「龍一くんも。そうそう、龍一くんがいちばんだったね」
三浦が明るく返す、そんな一幕もあった。
結果的に、21日のフリーはリスクを考慮して棄権を選択、優勝とはならなかった。ただ、アクシデントに見舞われ、それを乗り切ったショートプログラムは、あらためて2人の培ってきた地力を思わせるものだった。


