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「引退は投了と同じくらい難しいんですよ」羽生善治15歳~55歳の人生も、藤井聡太に完敗後語った「藤井将棋の凄み」も…本人が語った言葉が深い
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田丸昇Noboru Tamaru
photograph byKiichi Matsumoto
posted2025/12/23 06:02
前人未踏の通算1600勝を達成した羽生善治九段
「大山先生の時代と現代とでは、棋戦数も時代背景も違うので比較するのは難しいですが、数字の上でひとつ先に行けたのは大変ありがたいことだと思っています。10代の頃に晩年の大山先生との対局では、昔の強さと変わらない迫力がありました。私は大山先生の偉大な領域に、まだ達していません」
タイトルを数多く獲得した大山十五世名人は、50歳目前でタイトルが無冠になったが、その後はタイトルを11期獲得。1990年には最年長記録の66歳11カ月で棋王戦の挑戦者になった。92年に69歳で死去するまで、順位戦でA級にずっと在籍していた。
一方の羽生は2018年に48歳でタイトルが無冠になった。以降の7年間でタイトル獲得はなく、通算100期の大台を前に足踏みしている。順位戦ではA級からB級2組に落ちている。とはいえ、大山を目標にすることがモチベーションになっているようだ。
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また羽生は、「炎のマエストロ」と称される指揮者で将棋を愛好する小林研一郎(85)と交流があり、力を振り絞ってタクトを振る姿にいつも感銘を受けているという。
引退は投了と同じくらい難しいんですよ
羽生は2015年に週刊文春の対談企画『阿川佐和子のこの人に会いたい』に登場したとき、阿川に「引退を決意するときがきたら……?」と問われると、苦笑しつつもこう答えたという。
「引退は投了と同じくらい難しいんですよ。辞めようと思っても、やっぱり続けようと考え方が変わったりして、そのときにならないと分かりません」
羽生がタイトル保持者の頃の話で、引退はもちろん現実的ではない。「できるだけ長く現役を続けたい」と、かねてから語っている。
羽生は将棋連盟会長を6月に退任したとき、「まだ50代なので、棋士として頑張っていきたい意欲を持っています」と真意を語った。その端緒が通算1600勝だった。また、羽生からお願いして伊藤匠二冠(23)との練習将棋も始めたという。
完敗後に語った興味深い“藤井将棋評”とは
羽生のタイトル獲得に立ちはだかるのが藤井六冠だ。
2023年の藤井八冠と1996年の羽生七冠が対戦したら、という仮想の問いには、羽生は「まったく敵わないです」と笑いながら答えた。2025年10月に放送されたNHK杯戦の藤井との対局で羽生は完敗し、「短時間でも正確に急所を突く鋭さはすごい」と語って卓越した実力を持つ、藤井将棋の凄みを認めた。
しかし、羽生には長年の経験値と最新将棋への探求心がある。2023年の王将戦七番勝負で藤井に2勝4敗と健闘したように、藤井からのタイトル奪取は決して不可能ではないと思う。その大舞台がまた実現することを待ち望みたい。
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