将棋PRESSBACK NUMBER
「“喧嘩を売る気ですか”と中原誠が」「師匠を破門に」ひふみん加藤一二三の珍妙エピソード…対局経験棋士の記憶「病床でも藤井聡太の棋譜を」
posted2026/01/29 06:05
2016年12月、62歳差の対局を終えた加藤一二三・九段と藤井聡太四段
text by

田丸昇Noboru Tamaru
photograph by
JIJI PRESS
名人獲得の1年後…相手は谷川浩司だった
1982年(昭和57)の名人戦で加藤一二三・九段(42)は中原誠名人(34)に挑戦。将棋史に残る10局(持将棋と千日手を含む)もの死闘の末に4勝3敗で破り、初の名人位を獲得した。最年少記録の18歳でA級に昇級し、「神武以来の天才」と称された加藤が悲願をついに達成した。
加藤は幼い頃から寡黙だったそうだが、名人獲得を機に明るく社交的になった。約40社のメディアからの取材依頼にも、そつなく応じた。
83年の名人戦は、加藤名人に谷川浩司八段(21)がタイトル初挑戦した。世間は若き新名人の誕生を期待したが、棋士や関係者の予想は加藤有利の声が多く、対戦成績も加藤の3勝1敗だった。しかし谷川は第1局に勝った勢いで3連勝し、加藤はカド番に追い込まれた。加藤は2連勝で跳ね返したが、若い奔流に抗し切れなかった。谷川は第6局に勝ち、最年少記録の21歳2カ月で名人を獲得した。
ADVERTISEMENT
加藤九段は84年に高橋道雄王位(24)からタイトルを奪取したが、85年に高橋の挑戦に屈した。
米長vs加藤の“ユーモラス対抗”
その後、加藤がタイトル戦に登場する機会はなかった。その代わりと言ってはなんだが――盤上盤外の珍妙エピソードが、注目されるようになった。
私こと田丸が若い頃に見た加藤は、寡黙で近寄りがたい印象があった。
対局では不動の姿勢で盤面に没入していた。しかし、ある時期から対局中の言動に変化が生じた。
咳ばらいをやたらに発する、ベルトをつかんで上体を伸ばす、席を立って廊下で賛美歌を口ずさむ、食事やおやつを食べまくる、相手の対局者の背後に回って盤面を見る、秒読みの最中なのに「あと何分?」を繰り返すなど、枚挙にいとまがない。
それらの行為は奇異に思われるが、盤面に集中するために自然に身につけた習慣のようだ。秒読み中の「あと何分?」も、好手の発見を見出すルーティンだった。

