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「引退は投了と同じくらい難しいんですよ」羽生善治15歳~55歳の人生も、藤井聡太に完敗後語った「藤井将棋の凄み」も…本人が語った言葉が深い 

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田丸昇

田丸昇Noboru Tamaru

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photograph byKiichi Matsumoto

posted2025/12/23 06:02

「引退は投了と同じくらい難しいんですよ」羽生善治15歳~55歳の人生も、藤井聡太に完敗後語った「藤井将棋の凄み」も…本人が語った言葉が深い<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

前人未踏の通算1600勝を達成した羽生善治九段

 終局後の感想戦について、対局を終えた谷川浩司九段(23)が羽生の背後からそっと見ていた光景は、ある写真誌に掲載されて話題になった。

 羽生の将棋を見たほかの棋士からは、こんな辛口の見方もあった。

「大したことはないと、みんな言っていますよ」
「荒削りの魅力がない」

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 しかし、羽生が以降の対局でものすごい勢いで勝ちまくると、そうした声は消えていった。

デビュー対局はそこが原点でもあるので

 羽生は2022年にあるインタビューで、この一番という思い出の対局を問われるとデビュー対局を挙げ、次のように語った。

「奨励会時代は記録係をあまり務めなかったので、公式戦の対局がどのように行われるのか、勝手がよくわからなかったです。デビュー対局はそこが原点でもあるので、今でも印象がいちばん残っています」

 羽生四段が宮田六段に勝ったその対局は、1600勝という大河の流れの最初の一滴となった。羽生は1986年度から95年度までの公式戦の年間勝利で、60勝台が2回、50勝台が3回、40勝台が3回あった。90年代前半にタイトルを数多く獲得。96年2月には前人未到の「七冠制覇」を達成した。その後も着実に勝利数を積み上げていく。

 通算600勝=1999年(平成11)年2月10日。羽生王将は王将戦第4局で森下卓八段(32)に勝利(将棋栄誉賞)。

 通算800勝=2003年2月23日。羽生竜王は早指し選手権戦決勝で藤井猛九段(32)に勝利(将棋栄誉敢闘賞)。

 さらに2000年度の対局数:89局、勝利数:68勝は、いずれも歴代1位である。

 そして通算1000勝(特別将棋栄誉賞)を挙げたのは、2007年12月20日のこと。羽生二冠はA級順位戦で久保利明八段(32)に勝った。この時点での勝率は7割2分8厘、速度記録は22年0カ月、年少記録は37歳2カ月で、いずれも羽生が歴代1位である。

大山先生の領域に、まだ達していません

 当時、羽生は将棋雑誌のインタビューに応じて次のように語った。

「ひとつひとつの積み重ねがこういう形になって嬉しいです。ただ千勝した実感はありません。四、五段時代の貯金が大きかったです。現代の将棋はとても複雑です。良くいえば玄人好み、悪くいえば一般受けしない(笑)。若い頃は勢いで指しましたが、今は力を抜いて指すこともあります。パソコンの研究で得た新しい情報には、先入観を持たないように努めています。まだ30代(37歳)なので、今後も着実に前に進んでいきたいです」

 羽生にとって、1000勝という節目の大記録も通過点だったのだろう。

 そこから12年後の2019年(令和元)6月4日、羽生九段は歴代通算最多となる1434勝を達成する。王位戦挑戦者決定リーグ・白組プレーオフで永瀬拓矢叡王(26)に勝ち、大山康晴十五世名人の記録を27年ぶりに塗り替えたのだ。

 羽生は記者会見でこのように語った。

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