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「その時、思いが芽生えたのかな」市川華菜34歳が明かす“まるでドラマ”な結婚秘話…苦しむ元100m日本王者同士が結ばれた“深いラブストーリー” 

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矢内由美子

矢内由美子Yumiko Yanai

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photograph byAFLO/本人提供

posted2025/12/19 11:05

「その時、思いが芽生えたのかな」市川華菜34歳が明かす“まるでドラマ”な結婚秘話…苦しむ元100m日本王者同士が結ばれた“深いラブストーリー”<Number Web> photograph by AFLO/本人提供

2022年に佐分慎弥さんと結婚した市川華菜さん

 市川さんは佐分さんの存在は知っていたものの話をしたことは一度もなく、その合宿が初めて会話を交わした場となった。

「いきなり2時間話したんです。全部、陸上の話ばかりです。こんなに盛り上がるの? というくらいでした。どうすれば速く走れるようになるのか、私がそればかり次々と質問してあっという間に時間が過ぎました。それからですね、仲良くなったのは」

 佐分さんは市川さんが質問すると、たくさんのデータを紙に印刷して持ってきてくれるようになった。互いに惹かれ合った二人は結婚を前提として2019年に付き合い始めた。

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 2時間に及ぶロングトークの中で、佐分さんの考え方や豊富な知識に共感したり感歎したりすることがあったのは間違いないが、市川さんの心が大きく脈を打ったのは、佐分さんの胸の奥にひそかに疼く“しこり”に気づいたからだ。

「話をしている中で、彼はケガで陸上から離れた人だったので、陸上に対して情熱がある半面、辛かった思い出もあるのだろうと感じました。それは、私がロンドン五輪の後に腰のケガに苦しんだ思いと多分同じ。それを助けてあげたいという思いがその時に芽生えたのかなと思います」

始まった二人三脚「彼と一緒に最後まで陸上を」

 佐分さんは日本体育大学1年生だった2005年の日本選手権男子100mで優勝したが、その後はケガが続き、卒業と同時に選手生活を引退。その後、高校の教員を数年間務めた後に中京大学の大学院に入り、陸上の研究を始めたという経歴の持ち主だ。

「彼は陸上が好きで中京大学の大学院に来て、その間に非常勤講師もやって、時々、中京大学の陸上部も見ていました。最初はコーチをやることに足を踏み出すのは怖かったでしょうが、それでも何年も悩んで答えを出して陸上をもう一度やりたいという自分の気持ちを受け入れ、現場に戻ってきたのだと思います」

 そんなふうに想像を巡らせている時だった。市川さんは自身が腰のケガを克服し、再び這い上がった時のことを思い出した。

「速かった頃の、自分が一番輝いた時期があり、でもそこから先はもがく時間があり、私はそれが2年続きました。私はどうにか克服できましたが、乗り越えられる前に陸上を辞めることになっていたらどれだけ辛かっただろうと思います。彼は大学で引退してしまっていましたから、やっぱり何か気に掛かる部分はあるでしょうし、気に掛かるものを持ちながら指導者をするのは辛いのではないかと思いました。それならば、私が彼の代わりをすることは出来ないけど、彼と一緒に最後まで陸上をやって、お互いが満足して私が辞められたらいいのではないかな。そう思いました」

【次ページ】 「もう辞めさせてあげたい」佐分さんからの言葉

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