オリンピックPRESSBACK NUMBER
「大学ベストって…どういう意味?」日大→実業団で日本代表も経験…“現役時代は水泳一筋”東大水泳部に就任の新コーチが耳にした「衝撃の一言」
text by

別府響Hibiki Beppu
photograph byKeiji Ishikawa
posted2025/11/25 11:02
日大時代は日本代表の経験もある押切雄大。2022年から東大水泳部のコーチを務めるが、非強豪校ということもあり当初は多くのカルチャーショックがあったという
松本はパリ五輪の女子200m個人メドレー代表にも選出された松本信歩を姉に持ち、高校時代から都大会で優勝するなど、最初から全国でも上位クラスの力を持っていた。一方で、受験への準備もあり、高3の夏の都大会以降の大会は辞退していた。そのため本人にとってもブランクは少なくなかった。
「だから最初は競泳を続ける気は全然なくて。ただ、練習を見に来たら雰囲気がすごく良くて、それなら続けようかと思ったんです」
「それなら続けようか」という程度の動機だった松本だが、1年目の夏に転機が訪れる。
ADVERTISEMENT
8月の国公立大学選手権ではそれなりに勝負ができた。ところがその後に初めて挑んだ夏の日本インカレでは、全く歯が立たなかったのだ。
一方で、中高時代にライバルだと思っていた選手たちは、皆、早々に決勝レースで戦っている。その姿を見ると、悔しさが沸々と湧いてきた。
「絶対に来年からはあの場所で戦いたいと思いました。それで、今井月さんとか当時の日本代表クラスも所属しているクラブにお願いして、1カ月だけお邪魔させてもらったんです。その後も継続的に練習や合宿に参加させてもらいました」
そこで目の当たりにしたのは「日本代表選手でもこんなに練習しているのか」というシンプルな驚きだったという。
自分はまだまだ頑張りが足りない。どうせやるなら、本気でやろう。この環境でできることを、突き詰めよう――。こうしてやる気に火が付いた1年生エースを旗頭に、東大水泳部は快進撃を繰り広げていくことになる。
動きだした東大水泳部の「大躍進」
持田はこう振り返る。
「恭太郎とかは最初は全然、別格の選手だと思っていました。でも、もちろん強度は違うとはいえ、同じような練習を日々、一緒にやるわけです。こっちはレベルが低い分、伸びる割合が大きい。当然、差は少しずつですけど詰まってくる。そうすると恭太郎が戦っている全国レベルが、現実感を持って感じられるようになってきました」
松本と同じような練習ができれば、それはそのまま日本の学生トップクラスで戦えるということだ。目標の解像度が上がれば、ますますトレーニングにも身が入った。それは持田だけでなく、他の多くの部員にとっても同様だったのだろう。
そしてその思いは、押切の狙いの通り「チームとしての強さ」を格段にレベルアップさせていった。
<次回へつづく>

