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“日本最難関”東大の水泳部で「ある異変」…まさかの“日本インカレ9人出場&準優勝スイマーも出現”の衝撃「選手が続々覚醒」で過去最強になったナゼ
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別府響Hibiki Beppu
photograph byBUNGEISHUNJU
posted2025/11/25 11:01
言わずと知れた日本の最難関大学である東京大学。その水泳部競泳チームが躍進を見せている理由は…?
失意の中で2018年、押切は競技に見切りをつけることにした。一方で、そのタイミングでアスリート特有の壁にぶつかる。
競技を引退して、新しい一歩を踏み出さねばならない。だが、そのタイミングで気づいたのは「あれ、俺、水泳以外の世界のこと何も知らないじゃん」という現実だった。
それは、自身の未来を思い描くにあたって、シンプルに恐ろしいことだった。
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「選手として泳いでいるときも多少仕事はしていたとはいえ、普通の会社員とは明らかに違う生活でしたから」
ここからの人生は長い。そんな中で、自分は水泳に関わる世界だけで生きていくのだろうか。いや、そんなことはおそらくできるはずがない。
そこで押切が思いついたのが、大学に入り直すことだった。
競技引退後…もう一度「普通の大学生活を送ろう」
今度は、競泳とは全く関係のないキャンパスライフを送ろう。普通の大学生のように勉強に打ち込んで、ゼミにも入ろう。端的に言えば、押切は「世界を知ろう」と考えたのだ。
とはいえ、自身のキャリアは活かしてしかるべきだろう。
「これだけ競泳に打ち込んだ以上、水泳だけでなくスポーツが社会にどのような価値を生み、人や企業、地域をつなぐ力を持っているのかを理解するのが自分の成長にもつながるのかなと考えたんです」
そう考えた押切は、翌2019年に早大のスポーツ科学部に入学した。同学部は各競技のエリート選手が集う印象があるかもしれない。だが、基本的にそのほとんどはスポーツをバイオメカニクス的に分析したり、ビジネスの側面からスポーツに携わりたいといった、アスリートではない普通の学生たちだ。
「早稲田の水泳部も強豪なので、もちろん見知った顔はいました。でも今回は水泳に関わることはせずに、そこから離れてスポーツ科学を学ぶ普通の学生生活を送ろうと思ったんです」
そうして、押切は多くの学生たちとの大学生活を送った。もちろんかつて日本代表だったことなど普通の学友たちは知らない。その環境はかえって心地よくもあった。
一方で、まったく泳がずにいると、それはそれで時には「身体を動かしたい」という想いも出てきた。ただ、早稲田の水泳部は前述のように顔見知りも多い。もはや第一線は引退している身で、自分がそこに行くのも気が引けた。

